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【香港発】 新旧の共存と進化が進む“食い倒れの街”のヘルシー志向

定番の「アフタヌーンティー」と伝統の「亀ゼリー」が独自に進化

 甲斐美也子=香港在住ライター

摩天楼が建ち並ぶ大都会・香港には、英国植民地時代に入って来た優雅な食習慣や中国古来の健康の知恵、そして現代の欧米から伝わったトレンドが、不思議なバランスで共存している。その牽引役になっているのは、食いしん坊の香港人たちの飽くなき好奇心だ。

スパサロンで食べるアフタヌーンティーの進化系

DKアロマセラピーの「アロマセラピー・ハイティー・セット」は2人前で298香港ドル。アフタヌーンティーは予約が望ましい。

 「もうご飯食べた?」が日常の挨拶になるほど、食へのこだわりが強い香港人。レストランの栄枯盛衰も激しい香港で、次々と新作が発表され、レストランの話題作りに一役買っているのがアフタヌーンティーだ。

 紅茶、サンドイッチ、スコーンなどをセットにした伝統的な英国式は今や珍しく、チョコレートやマンゴ尽くしなど、お題を決めてみたり、ファッションブランドとのコラボでデザインに凝ってみたり。バラエティーの豊かさでは、本場英国をはるかに越えた独自の進化を遂げている。

 もう一つ、香港でここ数年、急激に盛り上がっているのが、オーガニックやベジタリアンなど、主に欧米から入ってきた食のヘルシー志向。かつては調理にたっぷり使用されていたラードや、MSG(グルタミン酸ナトリウム)などの化学調味料の未使用を掲げたり、中国本土から入る食材にスキャンダルが相次いで以来、出所の明確な安全な食材使用をうたう店が急増している。

 こうしたトレンドを一体化させた「食べて癒されるアフタヌーンティー」を発表したのは、レストランではなくスパサロン。エッセンシャルオイルやアロマセラピー製品の販売とスパ、カフェを兼ねた「DKアロマセラピー」だ。

世界各国のレストランが並ぶ中環・SOHOの一角にあるDKアロマセラピー(写真右手の黄色いひさしの店舗)。
オーナーのキャット・レイさん。店内には「DKアロマセラピー」のエッセンシャルオイルのほか、オリジナルティーやアロマセラピー用品などが並ぶ。

 経営者でこの道20年のアロマセラピスト、キャット・レイさんが、専門知識を生かして自らデザインしたアフタヌーンティーセットは、アロマセラピーに使うラベンダーやローズの高品質エッセンスオイルを使ったクッキーやチーズケーキ、有機小麦のパンと低脂肪チーズを使ったサンドイッチなど、軽めのランチやデザートにちょうどいい内容だ。

 食い倒れの街に現れた新顔は、健康志向と優雅さを融合させて、今後のアフタヌーンティーの進化の方向性を見せてくれている。

伝統の亀ゼリーで子どももニキビや整腸対策

カップ入りの亀苓膏は3タイプ。左から霊芝入りの高級タイプ58香港ドル、標準タイプ48香港ドル、喉と肺にいい海底椰と川貝入りタイプ48香港ドル。
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 欧米発のヘルシー志向を取り入れる一方で、中国の伝統的な健康の知恵が脈々と生きているのも、香港の奥の深いところ。なかでも注目なのが、亀苓膏(グイリンガオ・亀ゼリー)だ。昔から、手頃に食べられる滋養食として、特に女性には美容食として、老若男女問わず親しまれてきたもの。

 亀苓膏を代表的商品に据えながら、徹底してモダンなアプローチを取るのが鴻福堂(ホンフックトン)。忙しい香港人のライフスタイルに合わせて、地下鉄の駅やショッピングモールに100店以上のコンビニスタイルの店舗を展開している。

 ここでは、伝統的な亀苓膏だけでなく、いつでもどこでも食べられるチューブタイプのゼリー飲料の亀苓膏も販売。なんと「にきびで悩むティーンに大変人気」の商品なのだそう。そしてその横には、10歳以下の子ども向けの亀苓膏のゼリー飲料が!

 蜂蜜を入れて食べやすさをアップした子ども用の亀苓膏は、ポテトチップスのような油の多いジャンクフードを好む子どもの胃腸を整えるために購入する親が多いとか。

香港でも最も混雑する地下鉄の銅鑼湾(トンローワン)駅構内にある鴻福堂。一日中人通りが絶えない。

 中国の伝統を頑固に守る店もあれば、新しいアイデアを柔軟に掛け合わせて、若い世代にアピールする店もある香港。ヘルシー志向の広がりも、新旧東西の文化が融合する、香港ならではの展開をしているところが興味深い。






1日250杯限定、伝統回帰の亀ゼリーも大人気
2階の調理場には、草亀という亀の甲羅が入った大鍋がある。亀の甲羅にはカルシウムと滋養がたっぷり。亀の肉を使うことも可能だが、日持ちが非常に短くなるため、春回堂薬行では使用しない。28種類の成分を3回に分けて少しずつ調理する。メインの材料である土茯苓(ドブクリョウ)は底にこびりつきやすいので、ずっとかき混ぜている必要があるなど、非常に手間がかかる工程だ。

 「28種類の漢方薬材が使われている亀苓膏(グイリンガオ・亀ゼリー)のレシピは、500年以上前の文献からも見つかっているほど、 歴史のあるものなんですよ」と教えてくれたのは、中環(ジョンワン)の一等地で1916年に創業し、伝統の製法を頑固に守る漢方薬局・春回堂薬行(チョンウィートンジョクハーン)のマーティン・ラムさん。ビジネスパーソンにも観光客にも便利な地区にある(香港中環閣麟街8號・営業時間は8時30分~20時・日曜休み)。


亀苓膏1杯35香港ドル。好みでシロップをかける。体の熱を冷ますとされる涼茶(ローンチャ・漢方ドリンク)のスタンド販売も人気だ。
店主のマーティン・ラムさん。自身でも週に2回は亀苓膏を食べるそうだ。
 品質に納得できる漢方薬のみを扱うことをモットーとする春回堂が亀苓膏を作り始めたのは30年前。チェーン展開する老舗が多い中、 品質維持のために1店舗にこだわり、店舗の上階で毎朝作る約250杯を売り切れ御免で販売。新鮮な材料を使っているため、冷蔵庫で 保管しても賞味期限は3日のみ。


 次から次へとやってくる常連客は、近くの金融街に勤める若い女性から年配の男性まで、まさに老若男女さまざま。「体の中の余計 な熱を冷まし、排毒効果があります。便秘、肌荒れ、痔などに悩む人にとって、食べると効果を即実感しやすいのが、衰えない人気 の理由です」とマーティンさん。




(取材・文・写真/甲斐美也子=香港在住ライター)