日経グッデイ

男こそアンチエイジング!

今や老眼は“手術で治る”時代!?

タバコを吸う男性は老眼になりやすいというデータも

 伊藤和弘=フリーランスライター

年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに、「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。今回のテーマは「老眼」。年を重ねると誰もが悩む老眼も手術による治療法が登場してきた。その手術方法も選択できるようだ。

 40歳を過ぎると、小さい字が読みづらくなる人が増えてくる。「ん?」と目を近付けても、ますますぼやけるだけ。反対に目から離したほうが読み取りやすい―これが「老眼」(正式には老視)だ。初めて気がついたときは結構ショックだよなあ…。

 医学的には「加齢によって目のピント調節力が落ちることで、近くのものにピントが合わなくなる」状態のこと。「目から40cm離した本をスムーズに読めなければ老眼」と慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授は指摘する。

 その名の通り、老眼とは「目の老化現象」。通常は40代、早ければ30代後半から始まる。進行に個人差はあるし、症状に気がつかない人もいるが、年を取れば誰もが老眼になると考えていい。

 「タバコを吸っている人は老眼になるのが早く、女性よりも男性のほうが早く老眼になる傾向がデータとしてあります」と坪田教授。タバコが老化を進めることは確認されているし、女性は男性よりも長く生きる。つまり、老眼は全身の老化の表れかもしれないわけだ。

 なぜ、近くのものにピントが合わなくなるのか? 主な原因は目の中にある水晶体というレンズが硬くなるため。水晶体の上下には毛様体筋という筋肉があり、近くを見るときにはこの筋肉が水晶体を圧迫してレンズを厚くする。年を取ると水晶体が固くなり、毛様体筋が押してもうまく変形しなくなるので、近くにピントが合わなくなるのだ。

近くを見るときは、毛様体筋が水晶体を圧迫して厚くすることでピントがあう。年を取ると水晶体が硬くなり、毛様体筋が水晶体を押してもうまく変形しなくなる。
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 そのため、「毛様体筋を鍛えれば老眼を予防できる」という俗説もあるが、坪田教授によると、「残念ながらエビデンス(根拠となるデータ)はない」という。筋肉ではなく、あくまでも水晶体の老化(硬化)によって起こる、というのが定説だ。

 年を取れば誰もがなる老眼は、これまで病気と思われることは少なかった。そもそも、治しようがない。眼科医も「老眼鏡を使ってください」と言うしかなかった。

 ところが、医学の進歩はすごい! 「今や老眼は“治療できる”時代になった」と、坪田教授は笑顔を見せる。

老眼を治す手術とは?

 厳密に言えば、本当の意味で「老眼が治る」わけではない。老婆の肌が少女の肌に戻らないように、いったん硬くなった水晶体が若かった頃の柔軟性を取り戻すのは不可能だ。しかし、手術によって「症状を消す」ことで生活上の不便をなくし、本人が「治った」と感じるようにはできる。坪田教授はそれを「生物学的な意味での老眼は治らないが、社会的老眼は治せるようになった」と表現する。

 では、具体的にどんな手術があるのか見てみよう。

1.モノビジョン・レーシック

 角膜(眼球表面の膜)にレーザーを当ててカーブの形を変えるレーシック(LASIK)は近視の治療法として知られているが、遠視や老眼を治療することもできる。ただし、近くにピントが合うようにすると、遠くのものが見えなくなってしまう。そこで左右の目の度数を変えて、一方の目で近くを、もう一方の目で遠くを見られるようにするのがモノビジョン・レーシックだ。

 手と同じように目にも「利き目」があり、利き目ではないほうで近くを見られるようにする。左右の視力が変わるため、「最初は違和感があるが、しばらくすると慣れる人が多い」と坪田教授。事前にコンタクトレンズで試してみるとよい。

2.CK(Conductive Keratoplastyの略。伝導性角膜形成術)

 血管の止血などに使われるラジオ波(AMラジオと同じくらいの波長の高周波)を角膜の周辺に当て、熱で角膜のコラーゲンを凝縮させることで角膜のカーブを変える。周囲のカーブが強まると、近くにピントが合うようになる。FDA(米国食品医薬品局)は2004年に、ラジオ波の老眼治療への応用(CK)を認可している。

 大切な角膜の中央には触れないのでリスクは低く、処置はわずか90秒。他の手術に比べると費用も安い。ただし、強度の老眼は治せないし、時間が経って老眼が進行すると新たな対策が必要になってくる。

3.アキュフォーカス・リング

 直径3.8mm、中央に1.6mmの穴が開いたドーナッツ状の薄いリングを角膜の中に埋め込む。瞳に光が入る面積が小さくなることで、遠近どちらにもピントが合いやすくなる。

アキュフォーカスリング

 これは携帯電話のカメラなどに使われる「ピンホール効果」によるもの。光が入る部分が狭くなると、ピントの合う距離が長くなる。老眼が進行しても影響が出にくい。このリングを片目だけに入れ、そちらの目で近くが見えるようにする。

4.マルチフォーカルIOL(遠近両用眼内レンズ)

 白内障の手術では、白濁した水晶体を取り出して、代わりに人工の眼内レンズを入れる。これは一点にピントを合わせた単焦点レンズだが、複数の焦点を持つ遠近両用眼内レンズを入れることもできる。つまり、遠近両用のコンタクトレンズを入れるようなものだ。

 最近ではカスタムIOLといって、その人の目にぴったりのオーダーメイドの眼内レンズを作ることもできるようになった。費用は高くなるが、「白内障と老眼はもちろん、近視や乱視まで、すべてを治すこともできる」と坪田教授は話す。

 老眼手術は原則的に保険が適用されず、自費診療になる。坪田教授が手術顧問をしている「南青山アイクリニック」の場合、モノビジョン・レーシックが片目20万円、CKが片目11万円、アキュフォーカス・リングが片目31万円、マルチフォーカルIOLが片目39万8000円から(すべて税込み)。



 このように、今や「手術で老眼を治す」ことができるようになった。さらに、「老眼が全身の老化の結果だとすれば、食事や運動に気をつけたアンチエイジングな生活をすることで、老眼の進行を遅らせることもできるのではないか」と坪田教授は考えている。

(イラスト/うぬまいちろう)

坪田一男さん
慶應義塾大学 医学部 眼科学教室 教授
慶應義塾大学医学部卒業。1985年、米ハーバード大に留学し、角膜クリニカルフェロー修了。2004年から現職。日本抗加齢医学会理事長。ドライアイ研究会世話人代表。南青山アイクリニック手術顧問。著書に『ブルーライト 体内時計への脅威』(集英社新書)、『老眼革命』(日本評論社)など。2014年3月、『アンチエイジング・バトル 最終決着』(朝日新書)を出版。
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日経トレンディネット2014年4月28日付け記事からの転載です。