日経グッデイ

男こそアンチエイジング!

カラオケは「口の中」から若返れる?

歌で唾液の量が増える! ストレス解消にも効果あり

 伊藤和弘=フリーランスライター

 年を取ると「男らしさ」は失われていく。残念なことだが、いつまでも若い頃の外見・体力・健康は保てない。それを防ぐにはどうすればいいのか? この連載では第一線で活躍する専門家たちに、「男のアンチエイジング」の最先端を解説してもらう。今回のテーマは口の中のアンチエイジング。健康で若々しく過ごす秘訣は“歌う”ことだという研究結果が発表された。どういうことなのかを鶴見大学歯学部病理学講座の斎藤一郎教授に解説してもらう。

 口は全身の中でも老化が表れやすい部分。一般に年を取ると歯周病で歯の本数が減り、唾液の分泌量が減り、かむ力や飲み込む力が衰えていく

 高齢者の死亡原因は肺炎が多いが、日本抗加齢医学会副理事長も務める鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授によると、これも口腔機能の老化と関係があるらしい。「普通は細菌が口に入っても、飲み込んで消化している。ところが唾液の分泌が減り、飲み込む力も衰える結果、細菌が肺に入りやすくなってしまう」という。

 中でも問題は「唾液量の減少」だ。健康な人は1日1.5リットルもの唾液を出している

 唾液は単なる水ではない。抗菌成分、消化酵素、たんぱく質の一種である上皮成長因子や神経成長因子などが含まれている。「口の中の傷が治りやすいのも唾液の上皮成長因子のため」と斎藤教授。昭和の昔、ちょっとした傷は「ツバをつけとけば治る!」なんて乱暴なことを言われたものだが、意外に医学的根拠もあったわけだ。

 では唾液が減るとどんなことが起こるのか、斎藤教授に挙げてもらった。

1.口臭が強くなる
 体臭に敏感な現代人にとって、口臭は無視できない問題だろう。2011年に資生堂アメニティグッズが140人に行った調査でも、2013年にブラシナが600人に行った調査でも、「気になる他人の体臭」は口臭がぶっちぎりのトップだった! ちなみに前者の調査では、実に8割以上の人が「気になる」と答えている。

 腸内細菌と同じく、口の中にもたくさんの細菌がいる。唾液が減るとそのバランスが崩れ、「カンジダ菌などの悪玉菌が増え、その死骸の臭いが口臭になる」と斎藤教授は話す。

2.滑舌が悪くなる
 結婚式のスピーチなどで、緊張するとのどが乾く。これは交感神経が優位になって唾液の分泌量が減るため。口の中が乾くとネバネバして不快感があるし、文字通り舌の滑りが悪くなり、なめらかに話すことが難しくなる。カミやすくなるわけだ。

3.虫歯や歯周病のリスクが高くなる
 唾液が減ると虫歯菌や歯周病菌が歯や歯ぐきから洗い流されず、長時間定着しやすくなることで、虫歯や歯周病の進行を早める。

 歯周病は歯が抜ける大きな原因だが、その影響は全身に及ぶ。歯周病菌が血液の中に入ることでHDL(善玉)コレステロールを減らし、動脈硬化を進めるメカニズムも解明されている(PLoS One. 2011; 6(5): e20240)。

4.口角炎を起こしやすくなる
 「口角泡を飛ばす」という言葉もあるように、口の端は唾液がたまりやすい部分。唾液が少なくなると口中のカンジダ菌が増えるため、そこに炎症(口角炎)を起こしやすくなるという。

5.食道や胃にトラブルを起こしやすくなる
 唾液にはアミラーゼという消化酵素が入っているため、分泌量が減るとそれだけ胃に負担がかかるようになる。また、「ムチンというネバネバした成分がとがった食べ物を包み、食道や胃の粘膜を傷つけないようにしている」と斎藤教授。

 胃炎も起こしやすくなる。健康な人は大量に分泌する唾液を無意識に飲み込むことで胃酸を中和しているが、唾液が減ると胃酸過多で胃がダメージを受けてしまうためだ。

 「唾液は糖尿病、ストレス、筋力の低下、服薬などで分泌量が減るが、心身ともに健康な人は年を取っても唾液が減らない。唾液の量は心身の健康度を表している」と斎藤教授は指摘する。実際、唾液の分泌量が多い人は血液中のDHEA(男性ホルモンの一種)の数値も高かったという。

歌で唾液の量が増え、ストレスが解消される

 唾液腺は筋肉に裏打ちされているため、口の周りの筋肉を鍛えると唾液の分泌も増える。ガムを愛用するのもいいが、斎藤教授のイチオシは「カラオケ」だ

 「古来、人間は歌で喜怒哀楽を表現し、歌でつらい作業を耐え忍んできた。歌うことは健康にいいと言われるが、実際にどんな効果があるのか、第一興商と共同で調べた」(斎藤教授)

 実験に参加したのは60歳以上の高齢者44人。好きな曲を3曲歌ってもらい、その前後で唾液の量、唾液に含まれるコルチゾール(ストレスホルモン)の量、気分の変化を調べた。その結果、歌った後は唾液の量は増え、コルチゾールは減った(グラフ参照)。気分が明るくなり、「緊張」や「抑うつ」といったネガティブな感情も改善した。

■唾液量
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■コルチゾール
平均年齢64歳の男女44名(男性:10名、女性:34名)で実施。44名中、「歌が好き」32名、「歌が嫌い、うまく歌えなかった」12名で構成(出典:Biopsychosoc Med. 2014 May 21;8:11)
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 なぜ唾液が増えたのかというと、「口の周りの筋肉を使ったというフィジカル面と、歌うことで副交感神経が優位になったというメンタル面、ふたつの理由が考えられる」と斎藤教授は説明する。

 コルチゾールが減ったのも、リラックスして副交感神経が優位になったため。まさしく「歌でストレス解消」が実証されたわけだ。コルチゾールの量が多く、交感神経が優位になっているときは、免疫力が下がっていて病気になりやすいという。

 興味深いのは、「歌が好き」な人はもちろん、「歌が嫌い」「うまく歌えなかった」という人でも、効果が変わらなかったことだ。

 この現象を斎藤教授は「笑う門には福来る」という言葉を出して説明する。

「楽しくないときも、笑顔を作ることで楽しい気分になる。それは笑って楽しかったときの記憶がよみがえるため。歌っているときも表情筋が動くことで、幸せだった記憶、楽しかった記憶がよみがえり、コルチゾールが下がるのだろう」(斎藤教授)

 歌はストレスを解消し、唾液を増やして「口の中」から若返らせてくれるというわけ。口臭予防やアンチエイジングのため、がんがん歌いまくってほしい。ベテランのミュージシャンが若く見えるのも、ファッションや気持ちのせいだけではないのかもしれない。

 さて、医学的なお墨付きもいただいたことだし、今夜もカラオケに繰り出しますか!

(イラスト/うぬまいちろう)

斎藤一郎さん
鶴見大学歯学部病理学講座 教授
1979年、松本歯科大学卒業。米スクリプス研究所研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授、徳島大学歯学部助教授を経て、2002年から現職。ドライマウス研究会代表。日本抗加齢医学会副理事長。著書に『「現代病」ドライマウスを治す』(講談社+α新書)など。2015年9月、共著書『健康に長生きしたければ1日1曲歌いなさい』(アスコム)を刊行した。
日経トレンディネット2015年11月4日付け記事からの転載です。