日経グッデイ

走り亀 ~ヘタレランナー フルマラソンへの道~

ついにこの瞬間が! ハーフマラソン完走でカメ子号泣

第25回 本当のドラマは19.3kmの最終関門に待っていた【軽井沢:後編】

 カメ子=日経Gooday

膝痛への不安いっぱいでスタートを切った、人生初のハーフマラソン。ところが蓋を開けてみると、できすぎといっていいほど順調に距離を伸ばし、余力を持って折り返し地点を通過。これから先、練習では走ったことのない距離に突入するヘタレランナー・カメ子。果たして無事、ペースを維持してゴールにたどり着けるだろうか?

 真鍋未央コーチもびっくり、ドS編集長もあきれるハイテンションで、ハーフマラソンの半分を無事に折り返したカメ子(詳しくは前回記事「目標はビリでも完走! 人生初のハーフマラソンに挑む」)。折り返したことでさらに強気になり、浮かれているうちに、第2関門がやってきた。11.7km、制限時間は1時間33分。

 「まだタイムは余裕があるから大丈夫ですよ!」(真鍋コーチ)との力強い声に後押しされ、無事、1時間27分前後で通過する。ホッとして「湯川ふるさと公園」に入ると、関門通過のご褒美とばかりに、思わぬサプライズが待っていた。

 給食だ!! 大勢のスタッフの方がアンパンとバナナを配っている。

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12km手前で思いがけず現れたエイドに興奮するカメ子。食べたら一気に力が湧いてきた!(撮影:真鍋コーチ)

 事前に配られたコースマップには給水ポイントのみが書かれていて、給食があるとは思っていなかったため、このサプライズには心の底から感激した。アンパンを受け取り、無心でほおばる。

 おいしい…!! こんなにおいしいアンパンは、生まれて初めて。なんだかちょっと涙目になるカメ子。このタイミングでのエネルギー補給は本当にありがたい。

 「最高においしいです、このチョコアンパン!(≧∀≦)」(カメ子)

 「え、チョコだった? 俺のはアンコだよ。チョコも食べたいな。もう1個もらってくる」(編集長)

 そう言って2個目のアンパンを受け取り、食べてみたらまたもやアンコだったとうなだれる編集長…(笑)

14kmを過ぎ、未知の距離に突入…脚が重い…

 そんなコントのようなやり取りをしながら、往路で「心が折れそう」と思ったアップダウンを再び上っていく。さすがにここまで走ってくると、脚にも疲れが出てきて上り坂が堪える。途中で13.0kmの第3関門も無事通過するも、上ることに必死で、これまた気づかず…(タイムは手持ちの時計で1時間36分、制限時間1時間41分)。なんとか上り切り、再び別荘地帯に入っていくと、ついに14km。もはや、練習でも走ったことのない未知の世界に突入だ。順調だった左膝も、再び痛むようになってきていた。だが、この際そんなことは気にしていられない。

 「ここからががんばりどころですよ。とても安定した走りをしてきていますから、慌てなくて大丈夫です。落ち着いて行きましょう」(真鍋コーチ)

 「はい! まだまだ行けそうです!」

 …と威勢よく答えたのもつかの間。15kmの関門に近づくころには、脚全体が一気に重くなってきた。あれだけ元気よく沿道に手を振り返していたのに、別人のように無表情になっていくカメ子。ペースを落としているつもりはないのに、時計を見ると、1km7分台後半に落ちている。いかん…このままでは、関門が…!

 焦ってはペースを上げ、徐々にペースが落ちる…といった不安定な緩急を繰り返しながら、ひたすら真っ直ぐの一本道を走る。15kmの関門(第4関門、制限時間1時間56分)、なんとか無事通過。

 疲れた…。膝は痛いし、脚はイメージ通りに動かない。

 「できるだけ平坦で安定している、道の真ん中を走ってください。段差やマンホールに気を付けて。疲れが出てくるレース後半は特に、足場の悪い場所や曲がり角で足をひねることが多いんです」(真鍋コーチ)

 余裕がない中で、コーチの冷静なアドバイスがありがたい。大きな角を二度曲がり、次の17.6km関門(第5関門)は、再び続く一本道の先、線路を超えたところにあるはず。だが、走っても走っても、線路が見えてこない。

あのバスに収容されるのはイヤだ!!

 「関門まだかな?」「あと何分? もしかしてちょっとやばい?」

 周りのランナーから、徐々に焦りの声が聞こえ始める。

 つらい…。それほどきついペースではないはずなのに、終盤の疲れがたまったころにタイムに追い立てられ、一気に過酷なレース展開になってきた。まだあと4kmもあるのに、関門を2カ所もクリアしなければならない…!

17.6km関門直前の上り坂。必死。(撮影:真鍋コーチ)
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 線路手前に給水所が見えてきた。だが、もはや立ち止まっている暇はない。そのまま走り抜け、関門手前の線路を越える上り坂を走っていると、スタッフの声が響いてきた。

 「がんばれー!」「急げばまだ間に合うから!」

 え、それってつまり、急がないと間に合わないってこと?!

 コース脇をちらっと見ると、強制リタイアとなったランナーを運ぶためのバスが何台も待機している。

 怖い、怖すぎる…! あれに収容されるのは、いやだ…!

 バスを横目で見ながら、なんとか17.6kmの関門を通過! タイムは恐らく、制限時間の1~2分前、2時間13~14分くらいだったはずだ。

 ここからが、修羅場だった。

最終関門まであと1.7km、もう無理~!!

 「ここから最後の関門まで、7分ペースで走って! 7分!!」

 スタッフの男性が、関門を通過したばかりのランナーに叫ぶ。

 えー!! 7分?! む、無理…!

 やっとの思いで関門を通過したばかりなのに、追い打ちをかけるような厳しい現実に、心が折れそうになるカメ子。その時、ドS編集長が「アニマル浜口さん」と化した。

 「根性見せるのは、今だぞ。今見せなくてどうする!とにかく最後の関門さえ突破すれば、あとは歩いたっていいんだ。19.3kmが俺たちのゴールだ」

 「フォームなんてどうでもいい。とにかく、死ぬ気で走れ!気合いだ!気合いだ!」

 「はいぃ!」(カメ子)

 既に体力も脚力も限界に達していて、気合いとは裏腹にスピードが上がらない。それでも必死で、コーチと編集長の背中を追いかける。

 「周りのみんなもつらいのは一緒。あと少し、がんばりましょう!」

 真鍋コーチの優しい激励を受け、とにかく前へ、前へと走る。

 「どこ? どこなの関門? まだ??」

 地図ではもうすぐのはずなのに、なかなか見えてこない。焦りと苛立ち。周りのランナーも、皆必死の形相で走っている。

道のはるか先から「あと1ぷーん!」

 そのとき、道のはるか先から拡声器の声が響き渡った。

 「あと1ぷーん!」

 い、いっぷん?!?!

 「急げ! がんばればまだ間に合う!」と沿道のスタッフ。

 「走れ! あそこの白い看板だ、気合で走れー!!」(編集長)

 周りの集団がわっと加速する。でも、脚が思うように動かない。ダメ、私は無理。つらい、もう走れない。

 でも…

 ここまで走ってきたのに、ゴールできないで終わるのは、絶対にいやだー!!

 ぬおおおおおおーーーー!!!!

 満身創痍のカメ子、最後の力を振りしぼって走る!!

 「5……4……3……2……」

 徐々に近づいてくるカウントダウンのコール。どこが正確な関門ラインなのかもよく分からないまま、無我夢中で突進した。関門らしき場所を駆け抜けた瞬間、なにがなんだか分からず、頭は真っ白。

 え、間に合ったの? 大丈夫だったの?

 そのとき、編集長が言った。

 「後ろを見てみろ」

「間に合ったの?」振り返るとそこには…

 「後ろ?」

 振り返ってわが目を疑った。コース上の関門地点に、ランナー遮断のためのロープが張られている。そして、誰ひとり、後ろから走ってくるランナーはいない…。

 ま、間に合ったんだ!!

 そして、私たち3人が、19.3km関門、最後の通過ランナーだったのだ。

 ちょっと落ち着いて周囲を見回すと、少し先を走っていたランナーが、皆立ち止まって息を切らし、一様にホッとした顔をしている。

 本当に間に合ったんだ!! これで、ゴールできる!!

 その瞬間、緊張の糸がぷつりと切れ、涙がワッとあふれてきた。これまでの不安やつらさが一挙に押し寄せてきて、軽く嗚咽するカメ子。完全にゴールした気分になっている。

嗚咽しながらも脚は自然と前に出る。ゴールに向かってヨロヨロと歩く(19.5km付近、撮影:真鍋コーチ)
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 横を見ると、真鍋コーチも涙をぬぐっていた。

 「これまでいろいろな生徒さんと走ってきたけれど、こんなに感動したのは初めてかもしれません」

 きっと、こんなにヘタレでヒヤヒヤさせられた生徒さんは、今までいなかったのだろう。出来の悪い子ほどかわいいって言いますよね…コーチ、冷や冷やさせてごめんなさい。本当にありがとうございます!!

 出走前、3人で交わした「目標はタイムではなく完走だから、どうせならビリを狙うか」という冗談が、まさかこんな形で現実になるとは…。チームカメ子、まさに薄氷の通過。

 もしどこかでトイレに寄っていたら、もしスタートのタイムロスがあと30秒長かったら…。きっと間に合わなかっただろう。そして、ほんの紙一重の差で通過できなかった後続のランナーの気持ちを思うと、胸が痛んだ。関門制限って、なんて非情なんだろう…。

ついに憧れのゴールへ!

 そこからの1.8kmは、晴れ晴れとした気持ちで、ウォークも挟みながらゆっくりペースで走った。やがてスタート地点の横断幕が見えてきた。ついにここに帰ってきたんだ。

ゴールはスタートの横断幕の先を曲がったところ。あと少しだ。(撮影:真鍋コーチ)
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そして、コーチと手を取り合い、ついに憧れのゴール!
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 もう、一足先に感動を味わってしまったので、泣くことはないと思っていたのに、ゴールゲートをくぐったら、また涙が出てきた。真鍋コーチとハグ、そして固い握手を交わす。タロット占いを見事的中させたカメラマンM氏も、カメ子の完走を見届けて大喜びしている。

なんも言えねえ…
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 順位は一般ハーフ女子の部1201人中895位(実際にゴールしたランナーの中では、限りなく最後尾に近かった)。タイムは、2時間43分04秒、ネットタイム2時間40分26秒。狙ったかのようなギリギリのタイムだが、完走できないことも覚悟していただけに、大満足! 順位は関係ない。マラソンでは、1人1人にドラマがあるんだ…。

皆の支えがカメ子をゴールに押し込んでくれた

 思えば企画がスタートした1年前は、5分連続で走るのもやっとだった。それから1年、仕事や家事・育児の傍ら、時間を捻出してコツコツと走ってきた。少しずつ走ることが楽しくなってきた矢先に膝痛で思うように走れなくなり、最近はずっともどかしい思いが続いていた。

 正直に打ち明けると、「仕事ではなくプライベートで走れたら、どんなに楽だろう」と思ったこともあった。でも、レースを終えて、初めて気が付いた。もし1人で気楽に走っていたら、絶対に完走できなかった。真鍋コーチをはじめ、たくさんの人の支えが、なんとかギリギリのところで、カメ子をゴールに押し込んでくれたのだ。そして、膝痛があっても、気持ちを強く持って、ハーフを走り切ることができたことは、非常に大きな自信になった。

 皆様、本当にありがとうございました!

真鍋コーチからのメッセージ

 カメ子さんとの2回目のレース参加となった今回の軽井沢ハーフマラソン。前回の10kmレースは脚の痛みで途中リタイアした経験がある分、今回のハーフマラソンでは何とか笑顔でゴールさせたいという気持ちが私の中でもかなり強かったです。大会の楽しさを知ってほしい、また、それによって、フルマラソン挑戦へのモチベーションも大きく変わると感じたからです。

 そんなカメ子さんとの大会当日、明らかに緊張感があるようにも見え、いかにリラックスするか、ココが結構ポイントだと感じていました。そんな中、今まで一緒に同行して頂いた、編集長や、カメラマンさんがうまく緊張するカメ子さんをリラックスさせてくれました(感謝!!)

 今回の大会では最後の最後でドラマがありましたが、何よりも私が嬉しく思ったのは、無事に笑顔でゴールできたことはもちろんですが(途中号泣シーンもあったけど・笑)、それ以上に、途中でカメ子さんから出た言葉「今日、すごく楽しいです!全然きつくない!」…その一言が本当に嬉しかったです。

 長い期間をかけ、ゆっくり亀のように進んでいるカメ子さんですが、走る楽しさを確実に感じてくれています。私が指導している生徒さんたちにいつも第一に想っているのは、目標はそれぞれでいい、ただ「走るって楽しいんだ!」と感じてほしいということ。それが一番だと思っています。

 フルマラソンに向けたチャレンジの通過点でもある今回の大会! 本当にカメ子さんはよく頑張ったと思います。ただ、これがゴールではなく、自信をもってフルマラソンにチャレンジしてもらいたいです。そして、一緒に笑顔でゴールをして、「チャレンジしてよかった!本当に楽しかった」という言葉を聞きたいなと思います。

 引き続き読者のみなさま、応援よろしくお願いします。

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 ということで、連載はまだ続きます。

 レースを終えたカメ子は、心は充実感で満たされながらも、脚はヨロヨロ、膝はガクガク。階段を上ることも下りることもままならない状態で、重い荷物を引きずり、生ける屍となりながらなんとか家にたどり着いた。翌日は、悲しいことに月曜日。

「当然、出勤するよな。俺はするけど」(ドS編集長)

 や、休めない…のね…(TwT。) (次回「ヘタレランナー、目指すゴールは東京マラソン!」 に続く)

(写真:村田わかな)

(協力:ダンスキン〔カメ子着用:Non Stress Tシャツ 4300円、ショートパンツ 6000円、以上すべて税別〕、大塚製薬)

真鍋未央(まなべ みお)さん
ランニングアドバイザー
真鍋未央(まなべ みお)さん

福岡県出身。高校時代、中・長距離の陸上選手として活躍し、卒業後は資生堂ランニングクラブに所属。同クラブ在籍中にマラソンに転向。ベストタイムは2時間55分27秒(2006年1月29日大阪国際女子マラソン)。現在は、ランニングアドバイザーとして女性向けのセミナー、ランニングイベント「miobiRun」を定期的に開催するほか、TVや雑誌など各種メディアで活躍している。公式ブログはこちら
著書『週1回のランニングでマラソンは完走できる!』(池田書店)
(写真:村田わかな)