日経グッデイ

走り亀 ~ヘタレランナー フルマラソンへの道~

ランナーは食事が命、スタミナアップの栄養講座

第23回 教えて!ルミ先生 ~間違いだらけのカメ子の栄養管理~ 【前編】

 カメ子=日経Gooday

 痛かったり、痛くなかったり…。夏の間、なかなか治らない左膝に悩みながら、あっという間に秋を迎えてしまった、ヘタレランナー・カメ子。今回と次回は特別編として、マラソンシーズン突入を機に、レースを控えたランナーが気になる食事や栄養管理のポイントを、スポーツ栄養士の「ルミ先生」ことこばたてるみ先生にお聞きします!

 7月のレース(「10kmナイトラン、痛恨のリタイアで心は土砂降り」)で左膝を痛めた後、しばらくランニングから遠ざかっていた、手負いのヘタレランナー・カメ子。右脚のアライメント(形)の崩れを修正するという課題を発見し、(前回記事「ランの膝痛に悩み、スポーツマッサージ初体験!」)、日常生活での階段の上り下りと、補強トレーニングだけはコツコツと続けていたが、肝心のランニングの方は、一進一退。

 真夏は猛暑や天候不順で思うように走れず、ランニングの間隔が2週間空いてしまったこともあった。暑さから逃れるように早朝4:00に起きて走ったりもしたが、たった2~3kmで左膝に痛みが出る日もあれば、7km走っても問題ない日もあったりと、気まぐれな膝の状態に一喜一憂する日々。なかなか、10km以上のまとまった距離を走ることができない。

 「膝を痛めたのが夏でよかった…。この殺人的な暑さじゃ、どのみち長い距離は走れないし、地道な補強トレーニングにぴったりな時期かも!」と最初は気楽に考えていたカメ子だったが、気づけば夏も終わり、爽やかな秋の空気と共にランニングシーズンが到来。

気付けばいつものランニングコースにも秋の気配が…。

 いかん、これはさすがにいかーん!!

 走りたいのに走れない。左膝の痛みがなかなかなくならないために、一向にレベルアップできない―。そんなモヤモヤした自分の状況に、さすがに焦りが高まってきた。なぜなら、次の目標に設定していたレースが間近に迫ってきていたからだ。

 …ということで、いよいよ追い込まれた“窮鼠”ならぬ“窮カメ子”のレースの模様については、終了後にご報告することにして、今回は、特別編。レース前の体調管理に欠かせない、「食事=栄養補給」のポイントについて、スポーツ栄養士の「ルミ先生」こと、こばたてるみ先生に突撃取材をさせていただきました!

ランナーのスタミナに直結する食事。何に気をつければいい?

 ルミ先生は、数多くの一流アスリートの栄養指導を手がけ、食育イベントの主宰や講演、メディア出演などでも幅広く活躍する、日本初の公認スポーツ栄養士。ご自身もフルマラソンを何度も完走した経験のあるランナーなので、ランナーならではの視点を生かした栄養指導も好評だという。

 これまで、距離を伸ばすことや筋力をつけることに意識が集中していて、正直、食事にはあまり気をつかってこなかったカメ子だが、走るエネルギーを生み出すのは、食べ物。レースを控えた今、食事に気を付けることで、少しでもスタミナをつけ、体調を整えられれば大きな安心材料になるというもの。今日はルミ先生に、徹底的にご指導願います!

いつもの食事に副菜1品と乳製品、フルーツをプラス

ルミ先生、ランナーがトレーニングを効率よく進めてレベルアップしていくために、食事面で気を付けた方がいいことはどんなことでしょうか?

自らもフルマラソンを走るルミ先生。次回はレース前・中・後の栄養補給のアドバイスもたっぷりご紹介します。

ルミ先生 ポイントは、栄養の質と量の確保ですね。運動をしていない一般の人の場合、通常、主食、主菜1品、副菜1品は食べましょう、といわれています。主食の代表例はごはんやパン、麺類など、主菜は肉や魚、卵料理など、副菜は味噌汁、サラダ、煮物などの野菜類ですね。

 これらに加えて、運動をする人は、副菜をもう1品、そしてフルーツと乳製品を毎食とっていただきたいです。運動をすると筋肉を酷使しますし、エネルギーを消費します。汗と共にビタミンも失われます。したがって、普通の人よりも、エネルギーを作り出すためのビタミン、筋肉のダメージ回復に必要なたんぱく質などが多く必要になるんです。そのためには、様々な種類の食材をバランスよくとっていくことが大事になります。

(恐る恐る)必ず毎食、ですか?

ルミ先生 理想的にはそうですね。特に、毎日のように10km走っている、といった本格的なランナーであれば毎食このくらいは食べてほしいです。ただ、カメ子さんのように週1回、長くて10~15km、という方の場合は、毎食でなくても大丈夫ですよ。

 毎食、と聞くと、皿数をたくさん用意しなくては、と思いがちなのですが、「副菜2品」いうのは、食材の種類を増やすという意味合いですので、たとえばカレーライスであればそれだけで主食、主菜、副菜を兼ねていますから、それに追加の副菜としてサラダ、果物、牛乳(またはカレーにチーズをかける)、という感じで大丈夫です。これからの季節はクリームシチューにすれば主菜に乳製品を含めることもできます。

なるほど。皿数にはこだわらなくていいんですね(ホッ)。ただ、朝は大変そうです…。

秘策は「納豆卵かけごはん、キムチ乗せ」

ルミ先生 確かに朝がつらい、という声は多いですね。忙しい朝はできるだけ手間のかからないメニューを取り入れましょう。私がアスリートの方によく薦めている、「(料理が得意でない)一人暮らしの人でもできる朝食」は、「納豆卵かけごはん、キムチ乗せ」です。卵は生卵でも温泉卵でもOK。この1品で主食、主菜、副菜はクリアできますので、さらにインスタントの味噌汁に乾燥ワカメや冷凍野菜ミックスを入れて副菜を追加します。食後に牛乳を1杯飲んで、みかんやバナナなど、手軽に食べられる果物を食べて完成、という具合です。

確かに、それなら包丁も使わずにすぐに準備できそうですね。そこまでガッツリした「アスリート食」ではない、私のような初心者ランナー向きの朝食メニューはありますか?

シリアル、牛乳またはヨーグルト、フルーツがあれば合格最低点。(©Olga Miltsova-123rf)

ルミ先生 走り始めたばかりの女性で、運動量はそれほどでもない、という方でしたら、朝はシリアルにフルーツ、牛乳かヨーグルトがあれば、最低限の栄養素は確保できます。余裕があればこれに卵やハムなどを添えたいところですね。調理をしなくてもいい食材は意外とあるので、上手に活用して楽にとり入れていただけたらと思います。

ランチはどうでしょうか? 働いていればコンビニで買って済ませたり、外食しがちな人も多いですよね。

ルミ先生 ランチの場合、男性は丼ものを買ってくることも多いと思います。丼ものは主食、主菜、場合によっては副菜も入っていますので、追加でサラダや野菜ジュース、ヨーグルトを買うとバランスが取れると思います。

 むしろ問題が多いのは女性の方ですね。菓子パン2個とコーヒーという組み合わせは、牛丼大盛りよりもエネルギーが高く、ビタミンやたんぱく質も不足しています。甘いパンはせめて1個にして、1つは調理パンでたんぱく質をしっかりとってほしいところです。これにカットフルーツやサラダ、乳製品を加えればベターですね。

なるほど! 量についての目安はありますか?

ルミ先生 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考にしてください。たとえば、標準的な体型の30~49歳の女性の場合、ランナーであれば身体活動量が3段階のうち「高い」と考えられますので、1日の必要カロリーは2300kcalになります。これに自分の体格(標準身長・体重との差)とトレーニング量を加味して考えるといいと思います。

スタミナを持続させるためにはビタミンB1、B2が不可欠

バランスの重要性はよく分かりましたが、中でも特にランナーがとるといい食材や栄養素はありますか?

ルミ先生 ランナーは体の中でエネルギーをたくさん作り出さなければ疲れがたまってしまうので、体の中で不完全燃焼を起こさないようにすることが大切です。私はこれをたき火にたとえて説明しています(下図)。

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「たき火」ですか?

ルミ先生 たき火をするためには、まきが必要ですが、まきだけでは燃えませんよね。まきと一緒に新聞紙を用意して、マッチで火をつけて、うちわであおいでようやくまきが燃えます。この「まき」の役割をしているのが体脂肪や血中脂質「新聞紙」がごはんやパンといった糖質です。皆さん、だいたいここまではとれています。

 ところが、「マッチ」の部分をとっていない人がけっこういるんです。マッチの役割を果たしているビタミンB1は別名「元気のビタミン」といわれるほど、エネルギーの燃焼に不可欠な栄養素です。さらに、ビタミンB1が入ってやっと燃料に火がついても、それだけでは、燃えているのは「新聞紙」(糖質)だけで、すぐ消えてしまいます。火を持続させようと思ったら、「うちわ」で風を送って「まき」(体脂肪)を燃やさなければなりません。そこに関係しているのは主にビタミンB2です。

 ビタミンB1がないと、せっかく食事からとった糖質はうまくエネルギーになりませんし、ビタミンB2がないと体脂肪まで燃えずに「不完全燃焼」を起こし、長い距離を走ることができなくなってしまいます。

非常に分かりやすいたとえですね。

ルミ先生 ビタミンB1は豚肉やレバー、ハム、鮭、豆腐類、アスパラガス、アジなどに含まれます。ビタミンB2はサバや卵、乳製品、うなぎ、ソラマメ、レバー、緑黄色野菜などに含まれますので、ランナーの方はぜひ積極的にとっていただきたいです。

 その際、食べ合わせも大事です。ビタミンB1は水溶性で、取りすぎた分は体の外に出てしまい「とりだめ」がききません。ところが、ビタミンB1をアリシンという成分と一緒に取ると、ある程度は体の中にとどめておくことができるんです。つまり、一度きりしか使えない「マッチ」が「ライター」になるんですね。

 アリシンはネギやにんにく、ニラなど、香りの強い野菜に豊富に含まれています。豚肉を食べるならにんにくや玉ねぎと一緒に炒める、レバーはレバニラ炒めにする、納豆にはネギやあさつきを刻んでのせる、という組み合わせは非常におすすめです。

どれも割と定番の組み合わせですが、非常に理にかなっているんですね。ルミ先生、実は私、以前から鉄欠乏性貧血(以後、貧血)で鉄剤を飲んでいるのですが、ランナーは貧血になりやすいというのは本当でしょうか?

ランナーの大敵、貧血予防は「鉄分をとる」だけじゃダメ

ルミ先生 本当ですよ。長時間動き続けるために酸素は不可欠ですから、酸素を運ぶ赤血球中の血色素(ヘモグロビン)量も多く必要になります。また、運動して大量に汗をかけば、汗と一緒に鉄分も失われます。さらに長時間走ると、脚底にかかる衝撃で赤血球が壊されてしまい、貧血の一因になるんです。

脚底の衝撃で赤血球が壊される?! それは知りませんでした(愕然)。

ルミ先生 貧血状態になると、酸素が体の隅々まで届けられなくなり、スタミナ切れや疲労感の蓄積につながりますので、ランナーの貧血対策は非常に重要です。健康診断の一般的な血液検査で血中のヘモグロビン不足(鉄欠乏性貧血)と診断されなくても、体に蓄えられた「貯蔵鉄」が減っている、貧血予備軍(潜在性鉄欠乏性貧血)のランナーもたくさんいます。貯蔵鉄が減っている状態では、一生懸命練習してもエネルギーをスムーズに作りだせなくなります。だから、貧血予防はとても大事なんです。

そうなんですね! 私ももしかして、鉄が不足していなければ、もっと長い距離を走れるのかも…?!

貧血を直せばカメ子のスタミナはぐーんと改善?(写真:村田わかな)

ルミ先生 カメ子さん、鉄剤は普段どんな風に飲んでいます?

食後が多いです。

ルミ先生 そのとき、必ずたんぱく質と一緒にとるようにしてください。貧血対策として、鉄だけを取ればいいと思っている人がとても多いのですが、もともとヘモグロビンは、「ヘム(鉄)」と「グロビン(たんぱく質)」が結合したものなので、たんぱく質が不足していると、鉄だけをとってもヘモグロビンは合成されないんですよ。

そ、そうだったんですかっ?!

ルミ先生 さらにいえば、鉄の吸収を助ける「ビタミンC」も必要です。「鉄分」「たんぱく質」「ビタミンC」の3つは貧血対策の「三種の神器」として覚えておいてください。

ビタミンCのことはかろうじて頭にありましたが、たんぱく質もセットだったんですね。勉強になりました。

ルミ先生 鉄はレバーやあさり、ホタテ、牛肉、ホウレンソウ、小松菜、ひじきなどに含まれています。レバーや牛肉など動物性のものは、それ自体がたんぱく質も含んでいますので、ビタミンCと組み合わせればOK。レバーが苦手な人はひじきの煮物に肉や魚、柑橘類やイチゴなどのフルーツなどの組み合わせもいいでしょう。

 さらにいうと、いくら貧血予防に鉄やたんぱく質をとっても、糖質をきちんととっていないと、集中力や持久力の低下にもつながってしまいます。これに関しては、運動の前後のとりかたが重要になってきます。

そうなんですか! トレーニングやレース前後の栄養補給のポイントも、ぜひ教えてください(後編「レース前後の栄養補給、こうすれば強いランナーになれる!」に続く)

こばた てるみさん
(株)しょくスポーツ代表取締役、スポーツ栄養士、管理栄養士
こばた てるみさん 「ルミさん」の愛称で親しまれ、「世界一受けたい授業」「おはよう日本」などのメディアでも活躍する、日本初の公認スポーツ栄養士。また、日本酒造組合中央会認証の日本酒スタイリト5名のうち1人。
 競泳のオリンピックメダリストやプロ野球選手など、数多くの一流アスリートの栄養サポートを行い、現在は Jリーグ「清水エスパルス」やなでしこジャパンの某選手などの栄養サポートを手がけるほか、講演活動や食育イベント主宰、地域食材を生かした料理プロデュース・商品開発など幅広く活躍中。
 中学・高校ではバスケット選手として全国大会に出場。ゴルフ、テニス、ランニングも趣味で、プレイヤーの視点を生かした栄養指導にも定評がある。