日経グッデイ

走り亀 ~ヘタレランナー フルマラソンへの道~

ランの膝痛に悩み、スポーツマッサージ初体験!

第22回 左右の脚の長さが違った!…そして、そろった。

 カメ子=日経Gooday

10kmのナイトマラソンを膝の痛みでリタイアしてしまった、ヘタレランナー・カメ子。練習もできず、「また走ったら痛みが出るんじゃないか…」という不安で鬱々としていたところ、真鍋未央コーチからスポーツマッサージ体験のススメが。スポーツマッサージって、どんなところだろう? 行けば痛みは治るのだろうか?

思い出すとまだつらい、リタイアの記憶(写真:村田わかな)

 意気揚々と参加したナイトマラソンで、痛恨のリタイアを体験してから、2週間(「10kmナイトラン、まさかのリタイアで心は土砂降り」)。レース後には歩くのもつらかった左膝の痛みは、翌日の夜にはほぼ治まり、数日後にはまったく痛みを感じることなく日常生活を過ごせるまでに回復した。

 だが、もともと筋金入りのヘタレなだけに、精神的ダメージの方は後を引いた。最終目標を意識すればするほど、焦りと不安が頭を持ち上げてくる。

 「走ったらまた痛みが再発するんじゃないかな…。そうなったら、フルマラソンなんてとても無理なんじゃ…。せっかくここまでがんばってきたのに…」

 そんなネガティブ思考でいっぱいのカメ子の心中を察してか、真鍋コーチが緊急ミーティングを設定してくれた。そこで言われたのは、こんなことだった。

「トラウマになることが一番怖いんです」

 「まだ表情がすぐれませんけど、大丈夫ですか? カメ子さんの中で今回のリタイアがトラウマになってしまい、レースのときに悪いイメージが浮かんで、体が拒否反応を起こしてしまうことが一番怖いな、と思っています。今回のリタイアはアクシデントの側面が大きいので、まったくプレッシャーに感じる必要はありません。それに、何もかもが順調に進んで本番を迎えるよりも、こうした“波”があった方が、むしろ心構えができていいんですよ。失敗を教訓に成長していくランナーを私はたくさん見てきました」(真鍋コーチ)

 確かに、膝を気にすればするほど、悪い方へ悪い方へと自己暗示をかけそうになっている自分がいる。真鍋コーチと話すことで、落ち込んだ心が少し前向きになってきたカメ子。さらに、真鍋コーチはこんな提案をしてくれた。

 「一度、スポーツマッサージを受けてみてはどうですか? 膝の痛みには、筋肉のコンディション不良が影響していることが多いんです。専門のトレーナーに全身を見てもらえばそうした問題を把握できますし、意識的に補強することで故障のリスクを減らせると思います。自分では手が届かない部分の筋肉もしっかりほぐしてもらえますよ」(真鍋コーチ)

 そうか! これまで、「補強トレーニングに専念しながら、休んで回復を待つ」ことしか頭になかったカメ子。だが、膝の痛みの根本に筋肉の問題があるとしたら、いくら休んでも、走るたびに同じトラブルが起こる可能性がある。ましてやこれからどんどん距離を伸ばさなければいけないのだから、漫然と回復を待つだけでは、問題は解決しないかもしれない…。

2週間ぶりのランで膝痛が再発

 実際、2週間休んだ後のランニングでも、恐れていたことが起きた。

 真鍋コーチからは、「レース後は2週間しっかり休養し(補強トレーニングは徐々に再開)、痛みがなければランニングを再開してみてください。最初は4~5km(30~40分)を目安に、体をほぐす感じで、ゆっくり走ってみてください」との指示をもらっていた。

 だが実際、恐る恐る走ってみると、2kmほど走ったところで左膝の同じ場所がじわじわと痛みだした。

 「ああ、やっぱりきたか…(>_<)」

 がっかりしながらウォーキングに切り替えて、結局、計3km体を動かしただけで再開後初のトレーニングは終了…。

 やはり、早くスポーツマッサージを受けてみよう。

 痛みが再発して危機感が芽生えた勢いで、真鍋コーチに紹介してもらった治療院に連絡し、スポーツマッサージを体験させてもらうことになった。

スポーツマッサージってどんなことをするの?

 今回取材&施術体験をお願いしたのは、東京・恵比寿にあるケッズプラス治療院。まずはトレーナーの金子智亜樹さんに、スポーツマッサージのイロハをうかがった。

お話をうかがった、ケッズプラス治療院トレーナーの金子智亜樹さん。

スポーツマッサージは、普通のマッサージとどう違うのですか? 普通よりも痛いですか?

金子さん 「スポーツマッサージ」は、マッサージという大きなカテゴリーの中の1つの“流派”のようなもので、厳格な定義や線引きがあるわけではありません。大きな特徴は、施術の中で「筋肉を動かす」ことです。「痛い」と感じるかどうかは、その人の筋肉の状態によって異なりますので一概には言えませんが、マッサージの別の“流派”である「リンパマッサージ」や「アロママッサージ」よりは強い圧を感じるのではないかと思います。もちろん、患者さんが痛がる場合は力を加減しますので、安心してください。

 ちなみに、「マッサージ」と、いわゆる「リラクゼーション」「リフレクソロジー」などには大きな違いがあります。前者は「医療類似行為」に相当するため、「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格を持つ人でなければ施術できません。「治療院」という名前を付けて開業できるのも「あん摩マッサージ指圧師」だけです。一方、後者は「医療類似行為」ではないという位置づけのため、資格がない人でも施術できます。

なるほど。スポーツマッサージと聞くと、アスリート専門のマッサージという印象があって、敷居が高く感じるのですが、実際にはどんな人が受けに来るんですか?

金子さん 確かに「スポーツ」という言葉がついているので、スポーツをする人のためのマッサージというイメージが強いかもしれませんね。実際、当院のお客さんはランナーの比率が非常に高いです。

 でも基本的には、どなたが受けてもOKなんですよ。誰でも毎日、全身の筋肉を使って生活していますから、使い方によっては張りや凝りが生じます。普段特に運動をしていなくて、肩凝りや腰痛に悩んで来られる方もたくさんいます。アスリートであってもなくても、筋肉の状態をみて整える、という点で施術側のとらえ方は同じなんです。

そうなんですね。ちょっと安心しました。スポーツマッサージを受けにくるランナーの悩みで多いのはどんなものですか?

金子さん 一番多いのが、ケガや痛みです。それをきっかけに来院して、その後もメンテナンスのために継続して通ってくれる方が多いですね。ちなみに初心者にトラブルが出やすい部位は膝と股関節です。体を使いすぎると、まず一番弱いところに痛みが出てきます。それが膝関節と股関節なんです。

まさに私のようなケースですね(^^;) 特定の部位の痛みに悩んで来院した場合、スポーツマッサージではどのようなことをしてくれるのですか?

スポーツ経験が豊富でマラソン大会事情にも詳しく、ウエアや給水のアドバイスまでしてくれるという金子さん。頼もしい存在だが、実はご自身は「インドア派」とのこと(!)

金子さん まずは痛みを取り除く方法を考えます。一切走るのをやめて経過をみるのか、軽く走り続けながらストレッチを入念にするのか、といったおおまかな方向性ですね。これは、痛みの特徴(痛みの出るタイミングなど)や、触ってみて熱感や腫れがあるかどうか、といった点から判断します。

 それから、全身の筋肉をほぐしながら、筋肉の付き方、左右差、張り具合などを確かめ、痛みの原因を探ります。筋肉の張りを見つけると、その人の仕事や普段やっているスポーツ、痛む場所などの情報と組み合わせながら、どういう動きをした結果、その部位の張りにつながっているのかを想像します。そして、その張りが痛みにどうつながっているのかを考えるわけです。

 例えば、カメ子さんは左膝の外側が痛いんですよね。そして、普段からランニングフォームで右膝が内側に入ってしまっていると指摘されている。となるとおそらく、右脚にかかった力が逃げてしまい、その分左脚に負荷がかかって左の膝の痛みにつながっているのではないかなと想像します。あとで実際に見せてもらいますが、おそらく脚の筋肉に左右差があるのではないかと思います。

な、なるほど…(すごい!)。痛みの原因が分かったら、次はどうするのですか?

金子さん 痛みの原因で多いのは、筋力の弱さや、形(アライメント)の崩れです。施術ではまず全身の張りをほぐすことで、筋肉の形を整えます。その後、足りない筋力を補強するためのメニューやトレーニング量の調整、フォーム改善のポイントなどをアドバイスします。特定のコーチについている方の場合は、コーチと連絡を取って直接対処法をご提案することもありますよ。

 こうしたアプローチは一見「回り道」のようにも見えますが、痛みの根本を改善することが、「痛みを悪化させない」「繰り返さない」ためには必要不可欠なんです。痛くなったらしばらく休んでなんとなく良くなり、「だましだまし」走っているうちにさらに痛くなった…というサイクルを繰り返すうちに、走り続けられなくなってしまったランナーはたくさんいますからね。

(ドキッ)身につまされます…!

正常の状態を知ってもらうことがケガの予防に役立つ

痛みがなくなった後も、スポーツマッサージには通った方がいいのでしょうか?

金子さん 費用面との兼ね合いもあると思いますが、できれば、同じトレーナーに継続的にみてもらい、自分の筋肉の「正常の状態」を知っておいてもらえるといいですね。

 定期的に通っていただくと、施術中に「あれ?いつもと違う」と感じることがあります。そんなときは、たいてい、フォームが崩れていたり、新しいシューズが足に合っていなかったり、急激に距離を伸ばしていたり、何かしら変化が生じています。そうした変化が体に負担をかけた結果、張りにつながっているので、ケガにつながる前にフォームチェックを提案するなど、その人の状態に応じたアドバイスをしています。

 定期的に通うことが難しい場合でも、大事なレースの前には、一度、全身の筋肉をチェックして整えてもらうと、コンディションを上げられるのではないでしょうか。「なんだかいつもと違う」という漠然とした違和感だけでも伝えてもらえれば、原因はこちらで探します!(笑)

なんと心強いお言葉!

金子さん ではそろそろ、マッサージを体験していただきましょうか!

はい!よろしくお願いします!

左右の脚の長さが違う!

 初のスポーツマッサージとあって、少しだけ緊張しながら着替えると、「まずは施術台の上に座って脚をまっすぐ伸ばしてください」と金子さん。

 はい、と伸ばして見ると、すかさずこう指摘された。

 「見てください、左脚が少し短いの、分かりますか?」

 なんと?! 本当だ。まったく気が付かなかった!

 「土踏まずのアーチも、左の方が右に比べて低いですね。これは左の足裏の筋肉が張っているということです。土踏まずの低さも、脚の短さも、左脚の方が右脚よりも強い衝撃を受け止めているということを示しています」

 そうだったのか…!

 「それから右の膝。内側に入ってしまっていますね」

 た、確かに! 走っているときだけだと思っていたのに、普段からこうだったのか!

 「おそらく、もともと普段から右脚のアライメント(形)の崩れがあって、それがランニングで大きな負荷がかかることで、左脚にしわ寄せが出てきたのでしょう」

 と金子さん。なるほど…!

そろえてみると、左脚が少し短い。
力を抜いた自然な状態で、右膝が内側に入っている。

硬いと思っていたカメ子の股関節、実は柔らかかった!

 その後、横になって本格的なマッサージが始まった。実は圧の強いマッサージは苦手なカメ子。だが実際に受けてみると、絶妙な力加減でほとんど痛みは感じず、ひたすら気持ちがいい…。凝っている部分、張っている部分は「いたたたた…」となるものの、基本的には、至福のひととき!

筋肉と一緒に全身の疲れがほぐれていく…ああ、しあわせ。

 途中、金子さんから

 「カメ子さん、昔、何か運動していました? いい筋肉を持っていますよ。運動をしていた人は筋肉の素材がいいので、自転車の乗り方と同じで、ブランクがあっても体が思い出してくれます」

 と、大学時代まで一応体育会系だったカメ子に、お褒めの言葉が! さらに

 「肩も股関節も柔らかいですよ~。自分でうまく回らないのは、どこかの筋肉が張っていたり弱かったりするためです。あとは、骨格の違いで、人それぞれ曲がりにくい方向があるので、いろいろな方向に曲げてストレッチをしてみるといいですよ」

 とのアドバイスも。股関節の硬さには自信(?)があったカメ子。思いがけず柔らかいと言われてびっくり!

 計40分ほど全身をほぐしてもらい、最後にもう一度施術台の上で脚を伸ばしてみた。すると、内側に入っていた右膝がまっすぐ上を向き、左右の脚の長さもそろっていた。全身の力が抜け、ふわっと軽く、楽になった実感が。これがスポーツマッサージの効果なのか…!

施術後。左右の脚の長さがそろった。
右膝の向きもこの通り。

 「カメ子さんの左膝の痛みは、右脚のアライメントの崩れに起因していますね。まずは右脚の『正常な動き』を繰り返して体に覚えさせ、その動きを支える筋力を強化することが大事です。鏡で右膝が真っ直ぐ前を向いていることを確認しながら、ゆっくり曲げ伸ばしを繰り返す片脚スクワットなどがいいと思います。肩や股関節のストレッチも欠かさずやってみてください」(金子さん)

 そんなアドバイスをもらい、急に目の前が開けた気持ちになったカメ子。片脚スクワットといえば、以前、真鍋コーチに教えてもらったアレだ(「内臀筋を鍛える片脚スクワット」)。補強トレーニングにはほかのメニューもあるので、片脚スクワットは週に1~2回しかやれていなかったが、これからは重点的にやるようにしよう。真っ直ぐな足運びを右脚に覚えさせれば、きっとフォームも改善して左脚に負担がかからなくなるはず!

 よーし、急がば回れ。膝痛への不安からの解放を目指して、右脚強化をがんばるぞ~!(次回「ランナーは食事が命、スタミナアップの栄養講座」に続く)

 (取材協力:ケッズプラス治療院)

真鍋未央(まなべ みお)さん
ランニングアドバイザー
真鍋未央(まなべ みお)さん

福岡県出身。高校時代、中・長距離の陸上選手として活躍し、卒業後は資生堂ランニングクラブに所属。同クラブ在籍中にマラソンに転向。ベストタイムは2時間55分27秒(2006年1月29日大阪国際女子マラソン)。現在は、ランニングアドバイザーとして女性向けのセミナー、ランニングイベント「miobiRun」を定期的に開催するほか、TVや雑誌など各種メディアで活躍している。公式ブログはこちら
著書『週1回のランニングでマラソンは完走できる!』(池田書店)
(写真:村田わかな)