認知症患者の5分の1に抗精神病薬が処方
医療経済研究機構調べ、第1世代から第2世代への切り替え進む
富永紗衣=日経メディカル
出典:日経メディカル 2014年11月17日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
医療経済研究機構は11月5日、国内の認知症患者の5人に1人に抗精神病薬が処方されていることを報告した。これは2002年から2010年までの全国レセプト情報約1万5千件を解析して得られたもの。第1世代の抗精神病薬の処方割合は減少する一方で、第2世代は増加していることも明らかになった。
多くの認知症患者では、妄想、幻覚、攻撃性などの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)が見られる。これまで、非薬物的介入が困難なBPSDに抗精神病薬が使用される機会は多かった。だが近年、抗精神病薬の投与により死亡や歩行障害などの発現リスクが上昇することが示されたため、諸外国では警告や規制が行われ、世界的には抗精神病薬の処方は減少している。
日本では、認知症患者への抗精神病薬投与に関する強い警告や規制はない。抗精神病薬、抗不安薬などを含めた向精神薬が国内認知症患者の何割に処方されているのかについては、これまで医師にアンケートをした程度の小規模な調査しかなく、全国的な実態は不明だった。
医療経済研究機構研究部の奥村泰之氏らは、厚生労働省が実施した、毎年6月審査分の全国のレセプトを無作為抽出した社会医療診療行為別調査のデータを2次解析した。分析対象は、2002年から2010年までの同調査から、ドネペジル(商品名アリセプト他)が処方された65歳以上の外来患者、のべ1万5591人とした。
その結果、2008~2010年にドネペジルが処方された認知症患者のうち、抗精神病薬が処方されていたのは21%で、2002~2004年と比較して1.1倍程度の微増傾向が認められた(図1)。
薬剤別の処方割合について、2002~2004年と2008~2010年を比較すると、チアプリドやハロペリドールなど第1世代の抗精神病薬は17%から12%に減少。2008~2010年の処方割合が高かった上位3薬剤は、チアプリド(7.4%)、スルピリド(2.6%)、ハロペリドール(1.1%)だった。
一方、クエチアピンなど第2世代の抗精神病薬は5%から11%に増加した。処方割合が高かったのはクエチアピン(5.6%)、リスペリドン(4.5%)だった。
この結果に対し奥村氏は「抗精神病薬の第1世代から第2世代への切り替えが進む傾向が見られた。死亡リスクは、第1世代より第2世代の方が低いため、望ましい変化だ」と話す。しかし現在、国内でBPSDへの適応を持つ抗精神病薬はない。奥村氏は「重度BPSDに対する抗精神病薬の治験を実施しなければならない。同時に、抗精神病薬の処方割合を減少させる取り組みも必要だ」と今後の課題を挙げる。
今回の解析ではさらに、2008~2010年での国内認知症患者に対する抗不安薬の処方割合は12%、バルプロ酸ナトリウムの処方割合は1.9%であることも示された。特に、バルプロ酸ナトリウムの処方割合は2002~2004年の時と比べ2.3倍に上昇している。諸外国の無作為化比較試験の系統的レビューでは、BPSDへのバルプロ酸ナトリウム使用は推奨する根拠がないと指摘されており、奥村氏も「十分な注意を払うことが必要」と話す。
医療経済研究機構は本成果の一部を2014年9月12日にInternational Psychogeriatrics誌電子版で発表していたが、11月5日に訂正分を公開している。