eラーニングによる認知行動療法がうつ病予防に効果、東大が実証
大下 淳一=日経デジタルヘルス
出典:日経デジタルヘルス 2015年1月14日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
東京大学 大学院 医学系研究科 精神保健学分野 教授の川上憲人氏らのグループは、eラーニングによる認知行動療法にうつ病を予防する効果があることを明らかにした。世界初の成果といい、英国の科学誌「Psychological Medicine」に掲載された。
研究グループは今回、ストレスマネジメントの要素を採り入れた、漫画を使ったeラーニング教材を開発。あるIT企業でランダムに選んだ従業員381人に視聴を促したところ、調査期間後に遅れてこの教材を提供した同数の従業員に比べて1年間のうつ病発症率が1/5に低減した。この教材を32人が受講したとすると、そのうちの1人にうつ病予防が期待できると推測されたという。
低コストで大規模な予防に向く
うつ病など、企業労働者のメンタルヘルス不調の増加は社会問題となっている。従来、個人向けのストレスマネジメントが抑うつや不安を減らす効果があることは知られていたが、うつ病などの精神疾患を予防できるかどうかは不明だった。
これまでも、一対一の対面や集団での認知行動療法により、うつ病の発症リスクが30%ほど減少することは報告されている。ただしこうした方法はコスト高で、企業が多くの従業員に提供することは難しかった。そこで、低コストで多くの従業員に提供できる認知行動療法が求められていた。
研究グループは今回、日本の労働者を対象としたインターネット認知行動療法(iCBT)eラーニングプログラムを独自に開発。同プログラムのうつ病予防効果を検証した。iCBTプログラムは、認知行動療法に基づくストレス対処の方法を漫画で提供するもの。毎週1回の講義と宿題で構成される全6回のプログラムで、学習時間は宿題を含めて1回30分程度。
今回の結果を受け、研究グループは今後、さらに大規模なランダム化比較試験で効果を確認する考え。さらに、認知行動療法を用いたeラーニングが労働者のポジティブなメンタルヘルスや生産性に与える効果についても研究を進める。