認知症を遠ざける飲酒、運動のポイント 音楽は「聴く」より「演奏」
第3回 赤ワインに合わせるならカマンベールチーズ
田中美香=医療ジャーナリスト
活性酸素が引き起こす「脳の酸化ストレス」を切り口に、認知症対策について解説してきた本特集。今回は、日本認知症予防学会による認知症予防策のエビデンスレベルの判定に携わってきた国立精神・神経医療研究センター病院長の阿部康二さんに、酸化ストレス対策の範疇にとどまらない認知症予防策、中でも余暇の過ごし方に関わる話を聞いていく。前半で取り上げるのは、「適量を飲むならどのお酒?合わせるならどのおつまみ?」という、お酒好きには気になる話。後半では、認知症を遠ざける音楽や運動の楽しみ方を紹介しよう。
『「脳の酸化ストレス」を抑え、認知症を遠ざける』 特集の内容
- 第1回認知症の主犯の1つ「酸化」 50歳からの対策でリスクを減らす
- 第2回認知症を遠ざける食事とは? 酸化ストレスを減らすカギは「油」のとり方
- 第3回認知症を遠ざける飲酒、運動のポイント 音楽は「聴く」より「演奏」←今回
お酒を飲むなら、ポリフェノールが豊富な赤ワインを
体全体が必要とする酸素の2割を消費する脳では、酸素を消費する過程で「活性酸素」が多く発生している。過剰な活性酸素は組織を劣化させるが、若いうちや健康なときには、体に備わっている「抗酸化力」により、活性酸素による害を抑え込んでいる。
だが、残念ながら、抗酸化力は加齢や病気によって低下し、活性酸素がその力を上回るようになっていく。こうして起こるのが「酸化ストレス」だ。近年、この酸化ストレスがアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の発症・進行に関わることが分かってきた(第1回参照)。
そこに歯止めをかける方法の1つが、青魚に含まれるDHA・EPAなど、抗酸化作用・抗炎症作用を持つ成分を摂取すること。これにより酸化ストレスを抑えることが、認知症の発症抑制につながる可能性があると考えられている(第2回参照)。また、酸化ストレスを上げる要因には、大量飲酒・喫煙といった体に悪い生活習慣や、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病、ストレス、紫外線、大気汚染などがあり、こうしたものを避けることも認知症予防のためには重要だ(第1回参照)。
これらの酸化ストレスの要因の中で、気になる人が多いのは「飲酒」ではないだろうか。確かに過剰なアルコール摂取は生活習慣病や認知症のリスクを上げるが(詳しくは後述します)、たしなむ程度、適量のアルコールであればストレスを軽減する効果も否めない。国立精神・神経医療研究センター病院長の阿部康二さんも、「認知症予防のためには対人的な活動が有効です。適量なら、たまにおいしいお酒を飲んで仲間と楽しく過ごすことも、認知症予防につながる可能性があります」と話す。
一杯やるなら、楽しく、なおかつ少しでも認知症の予防効果が期待できるものがうれしい。この欲張りなリクエストに対し、阿部さんが勧めるのは赤ワインだ。赤ワイン100g中には230mgのポリフェノールが含まれており(*1)、他の飲み物より含有量が多い(次ページ参照)。

ポリフェノールとは、植物が光合成によって生成する色素や苦みの成分のこと。ポリフェノールは強い抗酸化力を持つことが知られており、脳の酸化ストレスを減らす効果が期待できるという。
もちろん、ポリフェノールを多く含む食材は赤ワイン以外にもたくさんある。下表に一例を挙げたが、この中から普段の生活に取り入れやすいものを選んで摂取するといいだろう。
種 類 | 含有量の多い食材例 |
---|---|
カテキン | 緑茶、赤ブドウ |
アントシアニン | ブルーベリー、イチゴ、ナス、赤ブドウ |
イソフラボン | 大豆 |
ケルセチン | 玉ネギ、ブロッコリー |
レスベラトール | ブドウ果皮、落花生の薄皮 |
ちなみに、赤ワイン以外のアルコールに関しては、「認知症との関連で、これだけは避けるべきというものは特にない」と阿部さんは言う。近年は、ビールの原料であるホップの苦み成分に認知症の予防効果があるとして、国内のビール会社が研究に乗り出しているという。認知症予防の観点からは、現時点では赤ワインがベストの選択かもしれないが、好きなものを少し飲むくらいなら他のお酒でも問題はないと考えていいだろう。
ただし、お酒の飲み過ぎは体に害を及ぼす。過剰のアルコール摂取は、肥満、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病との関係が深いほか、アルコールを分解する肝臓に負担がかかると、脂肪肝や肝炎などの肝臓病が生じる。また、循環器疾患や大腸がん、乳がん、食道がんなどのリスクを上げるほか、前述した通り、脳の酸化ストレスを上げるなどして、認知症の一因となることもある。
「赤ワインは1日1杯、多くても3杯までとし、日本酒なら1合、ビールなら350mL缶1本程度まで。飲み過ぎにはくれぐれも注意しましょう」(阿部さん)