しょっちゅうトイレに行きたくなる、ふとしたはずみに漏らしてしまう、夜中にトイレのために起きる…。そんな尿の悩みを、実に多くの中高年が抱えています。この連載では、誰もが悩んでいる尿トラブルについて、症状に合わせた対策や治療を医師が解説していきます。今回は、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟さんが、男女の尿トラブルの特徴が大きく異なる理由を、その尿道の構造の違いから解説し、有効なセルフケアについて紹介します。
尿道は男女で構造・長さが異なる
前回、頻尿や尿漏れ(尿失禁)の原因となる「過活動膀胱」を中心にお話ししました。今回は、男女で異なる尿トラブルの背景と、症状の改善に有効なセルフケアについて解説したいと思います。
この連載の第1回で、「頻尿」は男女ともに多い尿トラブルであること、女性は尿漏れの中でもお腹に力が入ったときに不意に起こる「腹圧性尿失禁」、男性は「排尿後尿滴下」といういわゆる“チョイ漏れ”に悩む人が多いことをご紹介しました。
性別によって尿トラブルの特徴が異なるのは、男性と女性の膀胱と尿道の構造が違うからです。まずはその違いからお話ししていきましょう。
男性の尿道は、膀胱から前立腺、骨盤底筋群、陰茎を通るため、L字型に曲がっていて、その全長は約20cmあります。女性の尿道は、膀胱から骨盤底筋群を貫き、尿道口に真っすぐに伸びていて、長さは約4cmほどしかありません。

そのため、尿道の短い女性のほうが、ふとした弾みに尿漏れが起きる腹圧性尿失禁になりやすいというわけです。
「前立腺肥大」はさまざまな尿トラブルに影響
男性の“チョイ漏れ”、排尿後尿滴下の原因は主に2つあります。1つは尿道を締める働きをする「球海綿体筋」という筋肉の機能低下、もう1つは尿勢(尿の勢い)の低下により尿道に尿が残りやすくなることです。
そして後者の背景には、「前立腺肥大」が多く見受けられます。つまり、排尿後尿滴下は、前立腺肥大が直接的な原因ではないものの、その影響を受けているというわけです。
前立腺は、男性にしかない臓器で、膀胱のすぐ下に位置しています。膀胱から伸びる尿道の根元の部分を取り囲んでいるため、前立腺が肥大してくると尿道が圧迫されて狭くなり、さまざまな尿トラブルが起こってきます。前立腺が肥大するメカニズムは、正確には分かっていませんが、加齢や男性ホルモンの減少が関係していると考えられています。