しょっちゅうトイレに行きたくなる、ふとしたはずみに漏らしてしまう、夜中にトイレのために起きる…。そんな尿の悩みを、実に多くの中高年が抱えています。この連載では、誰もが悩んでいる尿トラブルについて、症状に合わせた対策や治療を医師が解説。今回は、順天堂大学大学院医学研究科・泌尿器外科学教授の堀江重郎さんが、尿と健康寿命の関係について解説します。

夜間のトイレの回数が増えてきたら要注意!
頻尿や尿漏れなどの尿トラブルに悩まされている人は、尿の問題が日常生活に支障を来し、QOL(生活の質)にも関わることを実感されていると思います。
ただ、尿トラブルの問題はそれだけにとどまらず、生活習慣病とも密接な関わりがあり、健康寿命にも大きく影響することが分かってきました。
排泄物である尿が健康寿命を左右する、などとは考えにくいかもしれません。しかし、高血圧や動脈硬化、糖尿病などの病気が、尿のトラブルを引き起こしている可能性もあるのです。
そこで今回は、尿と健康寿命の関係についてお話ししたいと思います。
尿トラブルの中でも最も多いのが、頻尿です。日中の排尿が8回以上、夜間の就寝中に1回以上トイレに起きると、頻尿と見なされます。
日本排尿機能学会の調査では、40代以上で日中の頻尿がある人は約3300万人、夜間頻尿がある人は約4500万人と推計されています(*1)。とりわけ、夜間頻尿がある人は40~50代の半数以上、60代では約8割、70代以上では約9割となっていて、70代以上の2~5割は、3回以上トイレに起きています。

ヨーロッパで行われたある研究で、70代を中心とした高齢者の集団を6年間追跡調査 したところ、夜間に3回以上トイレに起きる男性は、死亡率が約2倍高かったことが報告されています。つまり、夜中にトイレに起きない人のほうが長生きしやすく、3回以上の夜間頻尿がある人は寿命が短くなっている可能性があることが示唆されているのです。
といっても、夜間頻尿そのものが寿命を縮めるというわけではありません。もちろん、夜中にトイレに起きたときにふらつき、転倒して骨折してしまい、それが寝たきりにつながるという可能性はあります。しかし、もっと影響が大きいと考えられるのは、夜間頻尿の背景にある、高血圧や動脈硬化、糖尿病、心臓病、腎臓病などの生活習慣病や、比較的若い世代にも多い睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな疾患です。それらを原因として、夜間頻尿という症状が起きている可能性が高いのです。