しょっちゅうトイレに行きたくなる、ふとしたはずみに漏らしてしまう、夜中にトイレのために起きる…。そんな尿の悩みを、実に多くの中高年が抱えています。この連載では、誰もが悩んでいる尿トラブルについて、症状に合わせた対策や治療を医師が解説していきます。今回は、日本医科大学付属病院泌尿器科部長の近藤幸尋さんが、男性に多いがんである「前立腺がん」と尿トラブルの関係などについて解説します。

初期の前立腺がんでは尿トラブルは起こりにくい
これまで、男性特有の臓器である「前立腺」の実態や、前立腺の肥大によってさまざまな尿トラブルが表れる「前立腺肥大症」について解説してきました。今回は「前立腺がん」についてお話しします。
全国がん登録の2018年の統計によれば、日本で前立腺がんと診断された人は年間約9万2000人で、男性が発症するがんの第1位となっています。ただ、前立腺がんはほかのがんと比べると進行が緩やかで、発見から5年後の生存率は99%以上と、死亡率はそれほど高くありません。
とはいえ、前立腺がんのすべての進行が緩やかというわけではなく、2~3割は「足が速い」といわれるケースもあります。しかも、頻尿や残尿感などの尿トラブルが表れる前立腺肥大症とは異なり、前立腺がんは初期に自覚症状があることはまれです。
前立腺肥大は尿道を取り囲む内腺と呼ばれる部分で発生するため、尿道が圧迫されることでさまざまな尿トラブルが起こります。それに対し、前立腺がんは主に、尿道から離れた外腺と呼ばれる部分に悪性の腫瘍が発生するため、がんが進行して尿道を圧迫するようになるまで自覚症状が起きにくいのです。

尿トラブルで受診して前立腺がんが見つかる場合は、すでにがんが進行してしまっているケースも少なくありません。そうなってからでは、がんを根本的に治す「根治的治療」が難しくなることもあります。