若きがん患者が問う「来年死ぬとしたらやること」を今しているか?
中山 祐次郎
中山:研究医は、すごく大事な仕事だし、面白いですよ。僕には、医師免許を持って白衣を着て研究をしている研究医の知り合いがたくさんいますけど、医学の勉強をして医師免許を持ったうえで研究をやるというのを強くお勧めします。
テーマによっては医師免許を持たなくても研究ができるかもしれませんが、やっぱり人間の体全体のシステムを学んだうえでやる研究と、そうではない研究は結構違う、というのが現場の意見ですね。
さらに、もし研究の分野で芽が出なかったときにも、医師免許があれば生活には困らない。こんな言い方をするのはちょっと寂しいかもしれませんが、これも大事なことです。
医者に幸福感をもたらすもの
なるほど。さて、最後に医者を志すみなさんに中山さんのほうからメッセージをお願いします。
中山:そうですね、僕は医者になって15年ですが、今、みなさんにお伝えしたいのは、「医者になるための努力も、なってからの努力も並大抵のものではない。しかし、医者になってからの幸福は苦労を十分に補って余りある」ということです。
医者になるために、大変な勉強量が必要です。特に最後の国家試験の勉強は厳しいですし、医者になってからも、ずっと勉強をし続ける必要があります。加えて、病院に勤める多くの医者は、担当する患者さんの命に責任を負っています。患者さんの身に何か起きたら、夜中でも日曜日でも呼び出されて飛んでいかねばなりません。そういう暮らしがずっと続きます。
ですが、それでも医者になってからの幸福は、苦労を十分に補って余りあるんです。まず、医者は経済的に恵まれています。給料はかなり高いのですが、それ以上に安定があります。たとえ病院がつぶれても、医者が失業して困るということはまずありません。
そして何より、「困っている人に直接会って、解決する」という仕事の内容そのものが、われわれ医者に直接的な幸福感をもたらすのです。その結果、「ありがとうございます」と言われ続けることになります。私は一度、1日に何回感謝を告げられるのか数えたことがありますが、だいたい25回でした。こんな仕事ってあるでしょうか。
誰かの役に立っているという「実感」こそが、とても幸福に感じるのです。世の中の人はすべて誰かの役に立っていますし、どんな仕事も誰かの命を救っています。しかし、それを直接実感できることはあまり多くありません。医者は、毎日それを目の当たりにしているのです。
救急車で担ぎ込まれて何もしなければ24時間以内に死ぬ人が、自分のメスとたくさんのスタッフの頑張りで元気になり、病院の正門から歩いて帰るんです。こんなことって、こんなうれしいことってあるでしょうか。
だからこそ、私はみなさんにぜひお医者さんを目指してほしいと思っているのです。
なんだか胸が熱くなりますね。ありがとうございました。
3人:ありがとうございました!
この連載が本になりました!

現役の外科医であり、小説家の顔も持つ中山祐次郎さんの連載「一介の外科医、日々是絶筆」が、大幅な加筆・修正を経て本になりました!
コロナ禍で医師という職業に注目が集まり、大学医学部の志望者が増えるといわれるなか、「医者の世界」の実像をうそ偽りなく、かつ面白く書いた意欲作です。
今、医者になる意義とは何なのか。医者は本当に尊い仕事なのか。患者の死とどう向き合うのか。コロナ診療はやはり命がけなのか。医者の給料は本当に良いのか。婚活では売り手市場なのか……。
「医者の世界」に興味がある方や自分の子供が医者志望の方、シリーズ38万部を突破しドラマ化もされた『泣くな研修医』(中山祐次郎著)に感動した方も必読です!
[日経ビジネス電子版 2021年11月22日の記事を転載。過去の連載記事はこちら]
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