新型コロナ第4波の「地獄」を見た医師、「本当に怖いのは人間」
中山 祐次郎

中山:「軽症中等症病床で気管挿管しても、重症病床が引き受けてくれない」とのこと。想像しただけで恐ろしいストレスですね。これはつまり、一般病棟で人工呼吸器の管理に慣れていない医師・看護師で管理をしたということでしょうか?
倉原:そうです。特に看護師の配置が問題になりました。集中治療では「2対1看護(患者2人に対して看護師が1人)」が標準ですが、そんなスタッフ数を想定していません。怖かったのは、「国公立病院の病床数の多さ」です。当時、私立病院もぼちぼちとCOVID-19患者を診てくれるようになっていたのですが、それでも5床とか10床のレベルでした。国公立病院の病床数は、例えば当院は55床、堺市立総合医療センターは60床、十三市民病院は90床と、かなり多いのです(いずれも第4波の時点)。
第4波では、軽症例はもう入院してきません。新規入院の70%がSpO2 90%を下回っていました。このうち、少なくとも1割、多くて2割が重症化しますので、病床数が多いところほど地獄を見ていたと確信しています。夜勤看護師3人の病院で、人工呼吸器4台を診ていたところもあったと聞いています。
人工呼吸器装着患者も「1床」のカウントですから、空きがあればどんどん新規入院がやってきます。しかもその7割が呼吸不全です。地獄の悪循環でした。
「患者の選別」に現実味
中山:倉原先生の病院では人工呼吸器を装着するかどうか、患者を選別する必要に迫られたのでしょうか。
倉原:直接的な選別はありませんでしたが、この次もし悪化した場合、この人を挿管するかどうかという議論にはなりました。すでに人工呼吸器が3台稼働していて、1人が悪化しそうだったのですが、ネーザルハイフロー(鼻を経由して酸素を投与する機器。気管挿管は必要ない)で乗り切るべきかどうか議論しました。
中山:まだコロナ禍が明けたわけではありませんが、これまで最も恐ろしいと感じたことは何でしたか。そして、学びになったことは何だったのでしょうか。
倉原:当初は新型コロナのことを私たちは恐怖していましたが、だんだん慣れてくると、自施設でクラスターを出さないように頑張ろうという一体感のほうが強くなってきて、恐怖心は薄れてくるんです。しかし、新型コロナ診療に従事する医療従事者への差別は結構ひどいものがありました。特に、職員の子供が保育園の登園をやんわり敬遠されたり、コロナ病棟に勤務している保護者は名乗り出てほしいという手紙が小学校から来たり。まぁこれは報道にある通りです。
たぶん、差別している人は悪気があるわけではなく、えたいの知れないものを自分のそばに近寄らせたくないだけなんですよね。だから何が最も恐ろしかったのかといえば、「人間」そのものです。ハンセン病、HIV感染症、ペストなどいろいろな感染症と人類は対峙してきましたが、これは差別の歴史でもあります。この情報化社会になってもなお、感染症で差別が起こるというのは信じ難かったですし、「人間」の怖さを思い知りました。
中山:なるほど、「地獄」といわれた大阪の第4波をくぐった先生がおっしゃると、重みがあります。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
[日経ビジネス電子版 2021年8月12日の記事を再構成。過去の連載記事はこちら]
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