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一介の外科医、日々是絶筆

コロナ感染の恐怖、我が子に会えない 外科医の壮絶なリアル

 中山 祐次郎

感染者が少ない環境で感染したら村八分

 それから1度目の緊急事態宣言が出ました。学校は休校になり、仕事をする人も在宅ワークをする人が増えました。私の住むエリアでは、まだ感染者は少ししかいない状況でしたが、それでも恐ろしさを感じていました。この恐怖は、その当時は漠然としたものでしたが、今になると正体がはっきりと分かります。

 この恐怖とは、まず第1には、多くの勤め人がそうであるように、自らの感染により周囲の人へうつしてしまい、業務に支障が出ることです。特に病院ではダメージが甚大で、私が担当するような、がんにかかっていて免疫が弱い患者さんにうつると、最悪死亡する可能性もあります。そうでなくても、スタッフが感染すると病院機能が低下し、この街の医療体制がガタつき、病院の収益は億単位で吹き飛ぶのです。

 おそらく、感染者が少ない環境で感染してしまっていたら、村八分と言うか、白い目で見られるのは間違いないでしょう。そういった、「多大なる迷惑をかけてしまうこと」への恐怖が一番だったと思います。

 同じくらい恐れていたのは、妊娠中の妻を感染させてしまうことでした。胎児の感受性が高い妊娠初期ではなかったものの、なにせ相手は未知の病気。風疹ウイルスのように、新生児に障害を残さないとも限りません。自分が感染してしまうと同居する妻への感染はかなり防ぎづらいため、もしかかってしまったらどうしよう、と恐れていました。

 その次に、自分が死亡する危険性という恐怖がありました。もっとも、初期の報告から高齢者の死亡率と比べると若年者はそれほどでもないということが分かっていましたので、「いざとなったらしょうがない、まあ生命保険にも入っているし、妻と生まれる第1子にはすまないけどこれで頑張ってもらおう」と思いました。

 医者って、私に限らず、自分の死亡リスクについては無頓着な人が多いような気がします。たくさん死を見すぎていて、「大丈夫だよ、それはただの死だから」とでも思ってしまうのかもしれません。

「そういう患者が来たらしょうがない」

 感染が広まるにつれ、職場の病院ではいろいろな影響がありました。病院では会議がなくなるか簡略化され、製薬会社が自社の薬を宣伝するためのくだらない医者向け講演会もすべてなくなりました。そして「不要不急の手術は延期するように」とのお触れが出ました(が、不要不急の手術などほぼないので変化はありませんでした)。

 医者も看護師もいつもの何倍も手を洗い、アルコールで消毒をしました。日本全体でマスクが不足しましたが、やはり病院でも不足してきました。

 外科医は普段つけるマスクと「手術用マスク」を分ける人が多く、私もそうでしたが、不足のため手術用マスクをなるべく使わずに執刀などしていました。手術用マスクは2本のひもで顔とマスクを密着させるので微調整ができるのですが、普段のゴムひもマスクだと長時間の手術では耳や鼻が痛くなってくるのです。それでも我慢してやっていました。

 ただ、夜間の緊急手術で外科医が感染する危険が高く、そのストレスは小さくありませんでした。この世には、胃や腸に穴が開いた人(消化管穿〔せん〕孔)や腸がねじれるなどして腐ってしまった人(腸管壊死〔えし〕)など、大急ぎでおなかを切って開けて治療しなければ死んでしまう病気があります。そういう人を私は毎月数人ずつ手術しているのですが、もしそれらの病気の患者さんが新型コロナウイルス感染症にかかっていたら、手術中にウイルスが飛散して私が感染する可能性が少なからずあるのです。

 それを防ぐための緊急のコロナ検査は、今はありますが当時はなく、会議では「そういう患者が来たらしょうがない」という結論。なるほど、患者の生命と外科医の感染リスクであれば、患者の命が重いのは当然です。

 しかしもし万が一そのような手術を執刀したら、妻にうつすから自宅には帰れないな、などと考えていました。しかしホテル住まいをするのもホテルに迷惑ですし、どうすればいいか分からない状況だったのです。

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