生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。前回に続き、今回は糖尿病だけでなく、動脈硬化にもつながる「血糖値」を上げないための実践的なノウハウをお届けする。糖質が含まれているものを食べると必ず血糖値は上がるが、含まれている糖質の量が同じでも“食べ方”によって血糖値の上昇は低く抑えられるという。糖尿病の予防や、悪化防止のために、血糖値を上げにくい食事法を知っておこう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。前回は健康診断で必ず調べる「空腹時血糖値」や「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の意味について解説しました。
空腹時血糖値とは食後10時間以上たったときの、血液100cc(=1dL)中に含まれているブドウ糖の量です。特定健診の基準値は2ケタ(100mg/dL未満)で、126mg/dL以上になると糖尿病が疑われます。一方HbA1cとは、赤血球の中にあるヘモグロビンのうちブドウ糖と結合したものがどれくらいあるかを見ています。検査した日の血糖値を見る空腹時血糖値に対し、HbA1cは最近1~3カ月間の血糖の状態を反映しており、特定健診の基準値は5.5%以下です。これが6.5%以上あり、さらに空腹時血糖値も126mg/dL以上あると糖尿病と診断されます。
前回に続いて、今回は実践編。血糖値を上げないためにはどうすればいいのか、血糖値を上げない食べ方のコツなどをお話ししたいと思います。
急激な血糖上昇で有害な「ゴミ」が大量に発生
ポイントは食後に血糖値の山を高くしないことです。
ご飯でもお菓子でも、糖質が含まれているものを食べるとブドウ糖が血液中に増加して血糖値が上がります。すると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて、ブドウ糖の倉庫である肝臓や筋肉に取り込まれるよう働くのですが、インスリンの出が悪い人や効きにくくなっている人はすぐに血中の糖を回収できず、いつまでも血液の中に糖が多い「高血糖」の状態が長く続きます。その間に血液を流れてくるヘモグロビンに糖がくっつき、その割合が増えるとHbA1cが高くなるわけです。また、高血糖の状態が長く続くと、血管壁も傷つけ動脈硬化が進みます。
食事により一時的に血液中に増えた糖は、インスリンの働きによって肝臓や脂肪細胞に取り込まれます。ところが高血糖が持続すると、私たちの体は何とかして余分なブドウ糖を処理しようと働きます。そのとき、糖代謝の別ルートが発動するんです。通常、ブドウ糖は100%燃える“クリーンエネルギー”で、エネルギーとして使われた後は何のゴミも残らないのですが、この別ルートの処理は、通常は使わない裏技なので、その代謝産物としてゴミがたくさんできてしまいます。それが糖尿病特有の合併症の引き金になるのです。
具体的には、通常は使わない「ポリオール経路」に送られ処理される中でソルビトールという物質に変換されます。これが増えると細胞内の浸透圧が上昇したり、細胞内の情報伝達を行う物質の取り込みを阻害したりして細胞を傷つけてしまいます。さらに、ソルビトールの処理が進むと、たんぱく質にくっつく性質が強まり、血管内皮細胞や異物を除去するためにパトロールしているマクロファージにさえくっついてしまうのです。そして、糖化産物というゴミが増えます。これが原因となって、神経や目の網膜、腎臓の細胞が傷つき、網膜症や腎症など糖尿病特有の合併症が起こります。
この、糖と結びついたたんぱく質が劣化すると、AGEs(糖化最終生成物)という悪玉物質ができます。高血糖の状態が長く続けば、それだけ糖化する(糖と結びつく)たんぱく質も増えるので、AGEsもたくさんできます。これはいったんできたら体外に排出していきません。シミ、シワ、骨粗しょう症、動脈硬化、さらに認知症の原因になると言われています。
このように、慢性の高血糖、中でも急激な血糖上昇は有害な「ゴミ」が増えるので避けたほうがいいわけです。