高血圧、高血糖、脂質異常、内臓脂肪…これらはなぜ良くないのだろうか。いつも何気なく見ている健康診断のデータだが、見方にコツはあるのか?――兵庫県尼崎市職員の健康管理戦略を進めていた頃に「現職職員の循環器疾患死亡ゼロ」を実現。分かりやすい保健指導で定評のある、保健師で大阪大学大学院公衆衛生学特任准教授の野口緑さんに、メタボを解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことについて、易しく解説していただきます。

こんにちは。大阪大学大学院で公衆衛生学、中でも生活習慣病予防の研究をしている保健師の野口緑です。みなさんは、健康診断の結果が戻ってきたとき、どんなところを見ていますか? 異常値があるかないかという結果しか見ず、たとえ異常値があったとしても、自覚症状がないからと放置していたりしませんか?
健診データは自分の体の状態を知る大切な指標なのに、それを指標として使えていないとしたら、とてももったいないこと。そこでこの連載では、保健師としての私のこれまでの経験も織り交ぜながら、健診データから自分の生活習慣を振り返り、メタボ解消など、積極的にライフスタイルを改善する方法をお伝えしていきたいと思っています。
第1回目の今回は、私が兵庫県尼崎市役所で職員の健康管理をマネジメントしていた頃に経験した、健診データを自分の健康状態の指標として見ることの大切さを物語るエピソードをご紹介します。
今から約20年前の2000年、私は兵庫県尼崎市の人事労務の担当として、職場環境チェックや健康診断、休職者へのサポートなどの仕事を担っていました。
当時、市の職員が4500人くらいいたのですが、驚いたことに毎年多くの職員が亡くなっており、多い年には20人近くにもなっていたのです。高齢者ではなく、60歳以下の現役世代がそんなに亡くなっていたことを初めて知ったときは、ものすごい衝撃でした。
その原因の2番目が心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病に関連するものでした。
「ちょっと高い」がいくつも重なることで…
そこで、倒れた人たちの健診データを調べてみたんです。すると意外なことに、例えば上の血圧(収縮期血圧)が160mmHgを超えているとか、空腹時血糖値が130mg/dLを超えているといった顕著な異常は見られない。血圧や血糖値は少し高めだけれど、高血圧や糖尿病と診断できるレベルではない。つまり、明らかな生活習慣病とは言えない方ばかりで、それが直接的な死因とは考えにくく、そのため当時は「過労死」あるいは「原因不明の突然死」という言葉で処理されていたわけです。
しかし、どこかで死に至る兆候があったのではないか、どこかで予防できるポイントを見逃してしまったのではないかと考え、過去からの、つまり、各人の入庁時からのデータをつなぎ合わせて調べると、倒れた人たちの共通項目が見つかりました。まず、30~40代の頃から肥満が続き、40歳を過ぎた頃から血圧や中性脂肪などの血管病のリスクファクターが少しだけ高くなってきていた、ということです。
血圧が高いといっても上の血圧(収縮期血圧)が130mmHg台くらいで、「高血圧」ではないんです(注:高血圧の診断基準は、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上)。今は130mmHgなら「高値血圧」と呼ばれますが、当時は140mmHg未満ならOKという考え方でした。
血糖値も、HbA1c(ヘモグロビンA1c)という項目があり、これは検査前2~3カ月の平均的な血糖の状況を反映するデータで、2012年に国際標準に変わったのですが、変更前の基準値は5.2%未満(*1)。当時は6.1%を超えると「糖尿病」でしたが、この値も5.6~5.7%と少し高い程度でした。中性脂肪も150mg/dLを少し超えるくらいで積極的な治療の対象外。つまり、どれも「病気」と診断されるほどではなく、正常範囲の基準値を少し超えるくらいだったんです。ただ、その「ちょっと高い」がたくさん重なっていたんですね。これが倒れた人たちの、肥満とは別のもう一つの共通項です。
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