生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は特定健診(メタボ健診)でも必ず調べる「肝機能」について教えていただこう。肝機能の指標となるALTやγ-GTPはお酒をたくさん飲むと上がることが知られているが、これらが上がる原因はアルコールだけに限らないという。そもそも肝機能の数値が上がることは何を意味しているのか? 数値を上げないためにはどんなことに注意すべきなのだろう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。今回のテーマは「肝機能」です。特定健診(メタボ健診)では中性脂肪やコレステロールと同じく、血液検査で調べられますね。日常生活でも「私はガンマ(γ-GTP)が高くて…」などの言葉をよく聞きますし、AST、ALT、γ-GTPが肝機能を示す項目であることは多くの方がご存じでしょう。これらはすべて肝臓に含まれている酵素で、肝臓が悪くなると数値が高くなります。
肝機能は多くの方が気にしていますが、お酒との関係だけで見る人が多いように思います。確かにアルコールの分解は肝臓で行われますが、肝臓の仕事はそれだけではありません。体に必要な栄養素を選択したり、作り替えたり、ものすごく大切な仕事をいろいろしてくれているんです。肝臓は右の肋骨の下にあって、重さは成人で1.0~1.5kgもあります。内臓最大の臓器であり、生きていくうえでなくてはならない大切な臓器です。
肝臓には大きく3つの働きがあります。
肝臓の主な仕事
- 体に不要なものを取り除く(解毒)
(アルコールや薬物など体にとって有害な物質を分解したり、消化管から一緒に吸収されたウイルスを殺したりして無毒化する) - 体に必要なものを作り出す(栄養素の代謝)
(小腸から吸収された栄養素や不要になった細胞をリサイクルして、体に必要な形に分解・合成する) - 一部の消化液(胆汁)を作る
(脂肪の消化を助ける消化液、胆汁を作る)
まず体に不要なものを取り除く仕事、つまり「解毒」です。
肝臓でアルコールなどの有害な物質を分解し、解毒するというのは聞いたことがあるかもしれません。しかし、それだけでなく、肝臓はもっと多くのものを無毒化する役割を担っています。
口から入ってきたものはいったんすべて、栄養素も一部のウイルスも無差別に、小腸の壁から血液中に吸収されます。飢餓の時代が長かった人間にとって、口から入ってくる食物は貴重です。その中に含まれている栄養素は、とにかくひとつ残らず全身の細胞が生きていくための材料にしたい、と。そのために、小腸の壁は細かいヒダの構造を持ち、表面積を広げています。消化管に流れてきた栄養を、できるだけ多く、小腸の絨毛(じゅうもう)上皮細胞に触れさせて、そこから毛細血管を通じて血管に取り込んでいるのです。
その血液が最初に向かう先が肝臓です。いわば肝臓は「血液の税関」みたいなもの。そのため、小腸から肝臓に向かう血管を「門脈」といいます。有害な物質やウイルスは肝臓で捕まり、クリーンになった血液が下大静脈(かだいじょうみゃく)を通して心臓に送られ、そこから心臓のポンプの力を使って全身に送られます。沈黙の臓器と言われる肝臓は、黙って、私たちの体の要職、門番として働いてくれているのですね。また、肝臓が重く、真っ赤な色をしているのは血液がたっぷり詰まっているからです。
