メタボリックシンドローム(メタボ)を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は「尿酸値」について教えていただこう。尿酸値が基準値よりも高い状態を高尿酸血症といい、足の関節などが腫れ上がる痛風のリスクが高まることが知られている。しかし、高尿酸血症によって引き起こされる事態は痛風だけではないという。高尿酸血症の本当の怖さとは何か、尿酸値を上げないためにはどんなことに気をつければいいのだろうか。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。今回のテーマは多くの中高年男性が気にしている「尿酸値」です。尿酸値は特定健診の必須項目には入っていませんが、とても大切な項目です。オシッコの中に排泄されることから「尿酸」という名前がついていますが、尿検査ではなく、血糖値やコレステロールと同じく血液検査で調べます。
尿酸とは腎臓から捨てられる老廃物の一つ。抗酸化物質でもあるので必ずしも悪者ではなくて、ある程度の量は体に必要な物質です。中には遺伝的に尿酸が作れず、極端に尿酸値が低い「低尿酸血症」の人がいます。そういう人は活性酸素によって血管が傷み、動脈硬化が進みやすい可能性があるでしょう。一方、尿酸は多すぎても血管の内皮細胞に炎症を起こし、やはり血管障害を進めてしまいます。
高尿酸血症の診断には「6、7、8のルール」というのがあります。尿酸は、少量なら体にプラスに働きますが、血液中の量が6.0mg/dLを超えるとマイナスに働き、7.0mg/dLを超えると「高尿酸血症」と診断されます。7.0m/dL超ではあるけれど8.0mg/dL未満の人は、生活習慣の改善に取り組むことになります。そして、8.0mg/dL以上で腎障害、高血圧、糖尿病などの合併症を伴う場合は薬物治療の対象に、9.0mg/dL以上になると合併症の有無にかかわらず薬物治療の対象になります(*1)。
つまり、6.0mg/dL以下を維持することが予防のためには大事、7.0mg/dL超で高尿酸血症と診断され、8.0mg/dL以上で薬物治療を始める、というのが尿酸値の管理の基本的な考え方です。
高尿酸血症で怖いのは痛風だけではない
みなさん、尿酸というとすぐ「痛風」を思い浮かべます。発作が起こると「風が吹いても痛い」といって、大変な激痛で歩くこともできなくなることがよく知られていますね。もちろん会社に行くどころではなく、救急車を呼ぶ人も少なくありません。
血液中に尿酸が多くなると溶けきれなくなり結晶化します。特に、血液循環が悪く体温の低い手足の関節などにたまりやすく、この固まりを尿酸塩結晶といいます。この結晶が関節内に剥がれ、それを白血球が処理する際に炎症が起きて腫れ上がる。これが痛風発作です。
痛風発作が起きるということは、関節に尿酸塩結晶がたまるほど尿酸値が高いということ。尿酸塩結晶は、毬栗(いがぐり)のイガのような形をしていて、私はこれを、一般の方にも分かりやすいよう、「痛風発作が起きる、起きないに関係なく、数値が上がっているということは、血管の壁を毬栗のトゲでガリガリひっかいているようなイメージ」と説明しています。
尿酸値が高くても必ず痛風発作が起こるとは限りませんが、7.0mg/dLを超えた高尿酸血症の人は関節に尿酸塩結晶が沈着している可能性が高く、いつ剥がれて発作が起こってもおかしくない状態です。一旦できた尿酸塩結晶は、尿酸値が6.0mg/dL以下にならないと溶けません。そのため、最初の発作はかなり尿酸値が高くないと起きないものの、1回起きた人は6.0mg/dL台まで下がっても起こるといわれます。
さらに、痛風や高尿酸血症が長期間持続すると、腎臓に尿酸塩結晶が沈着して腎臓の働きが悪くなり、「痛風腎」と呼ばれる状態になることがあります。ひどくなると透析が必要になることもあります。
ただし、痛風は高尿酸血症の局所的な一つの病態にすぎません。痛風発作よりももっと怖いことがあります。それは「高尿酸血症になると血管の内皮細胞が炎症を起こし、血管障害が進むこと」です。その結果、全身の血管に炎症が起きて動脈硬化が進んでしまいます。