高血圧を改善する方法はいくつかあるが、最も確実で簡単なのは薬を飲むことだ。だが、高血圧の薬については「誤解」や「十分に理解されていないこと」も多い。メタボリックシンドローム(メタボ)を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は高血圧の薬について知っておきたいことを解説していただこう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。前回に続いて、患者数が最も多い病気で、成人の2人に1人が該当する高血圧(*1)についてお話ししたいと思います。今回のテーマは「高血圧の薬」です。
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」によると、高血圧の患者数は約4300万人と推計されています。ところが治療を受けている人はその半分ちょっと。約1850万人は治療を受けずに放置しています。これは大変危険なことです。ありふれた病気で、何の自覚症状もないので軽く考えている人が多いのだと思います。しかし、前回記事でも解説した通り、毎日強い圧力を受ける血管はどんどんダメージを受け、脳卒中、心臓病、腎障害などを起こして命を落とすリスクは高まっていきます。
そこで、血圧が高いことが見つかって受診すると、降圧薬、すなわち血圧を下げる薬を処方されるわけですが、これについてたくさんの人が誤解していることがあります。
まず知っていただきたいのは、高血圧の薬は、高血圧という病気を根本的に治すためのものではなく、血圧そのものをコントロールするものだということです。高血圧の薬は、血管を広げたり循環血液量を減らすなど、血圧を上げる要因にアプローチすることで一時的に血圧を下げるだけ。高血圧の原因を根本的になくすわけではありません。
ところが、何年も飲み続ければやがて高血圧が治ると考えて、「長く服用したから、そろそろやめてもいいのでは?」と自己中断してしまう人がいます。そうすると、血圧が高くなってきますが、その状態を放置すると脳卒中や心筋梗塞を起こすリスクが高くなるのです。つまり、そのリスクファクターである血圧を「コントロールする」のが血圧の薬を飲む理由。言い換えると、高血圧の薬は「脳卒中や心筋梗塞の予防薬」なのです。コロナで言えばワクチンのようなもので、発症の可能性を下げるという意味で重要です。
降圧薬は「近視の人のメガネ」と同じ
これは高血圧だけに限らず、生活習慣病の薬全般に言えることです。スタチン(コレステロール低下薬)を飲んでLDLコレステロールを下げるのも同じで、やめれば元に戻ってしまいます。「病気を治す」のではなく、「症状を抑えて、リスクをコントロールする」のが生活習慣病の薬です。例えて言うならば、近視の人にとってのメガネのようなものです。近視の人がメガネをかけるとよく見えるようになって生活上の危険を回避できますが、近視が治るわけではありませんよね。
治らないのになぜ飲むかといえば、やはりメガネをかけるのと同じで、薬を飲むことで「安全に生活できる」からです。近視の人は他人から強制されなくてもメガネをかける。それは生活の不都合があるからでしょう。血圧はいくら高くなっても自覚症状がありませんが、実は気づかないうちに血管が徐々にダメージを受け、重大な変化を起こします。そうした状態を一日でも早く改善することが大切なのです。そのために一番即効性があって、短期間で確実に効果が得られるのは薬を飲むことなのです。
こうしたリスク管理の観点から考えると、薬は大きな努力を必要としません。例えば高血圧の原因の一つに内臓脂肪の蓄積があれば、内臓脂肪の減量やためない努力を一生続けなければいけません。もちろん、それはそれで重要なこと。薬さえ飲んでいれば暴飲暴食をしていいわけではなく、同時に生活習慣の見直しが大切ですが、薬を飲むことで、いわばゲタを履かせてもらったようになるのです。また、減量を待っているといつまでも脳卒中や心筋梗塞のリスクにさらされるという場合など、緊急避難的な意味からも薬の服用は重要なのです。