メタボリックシンドローム(メタボ)の診断基準に「腹囲」がある。その基準を見て、男性が85cmで女性が90cmになっているのを不思議に感じたことはないだろうか。男性の方が体格が大きいのに、なぜ男性の腹囲基準の方が細いのだろう? 生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は「腹囲の謎」を中心に、メタボの男女差について教えていただこう。

メタボの条件は「おなかが出ている」こと
こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。今回は「メタボリックシンドローム(メタボ)と腹囲」についてお話ししたいと思います。
ご存じの通り、メタボの診断基準に腹囲(おへそ周りの長さ)がありますね。腹囲が一定以上に大きいことに加え、高血糖や高血圧など血管障害につながる複数のリスクファクターを持っている状態がメタボです。逆に腹囲のサイズさえ小さければ、高血糖、高血圧、高中性脂肪とそろっていても「メタボとは診断されない」ことになります。
誤解のないように補足しておくと、メタボでなければOKというわけではありません。メタボ基準に該当しなくても、高血糖や高血圧があれば血管障害のリスクになります。ただ、内臓脂肪の蓄積を伴ってメタボと診断されると、心筋梗塞などを発症しやすい状態にあると太鼓判を押されたも同然ということになるのです。つまり、メタボの病態には「おなかが出ている」こと、つまり内臓脂肪がたまっていることが大前提なのです。そのため、メタボリックシンドロームという英語は直訳すれば「代謝症候群」ですが、日本では「内臓脂肪症候群」と訳されています。
その重要な腹囲の基準を見ると、日本では「男性が85cm以上、女性が90cm以上」になっています。なぜ体の大きい男性のカットオフ値が小さいのか、不思議に思う人も多いのではないでしょうか。
実は、他の国々の腹囲基準の多くは、男性より女性が小さく、米国、カナダとも男性102cm以上、女性88cm以上、WHOのアジア人を対象とした基準でも男性90cm以上、女性80cm以上、となっています(*1 )。