高血圧は最もありふれた病気で、成人の半分は該当するという代表的な生活習慣病だ。血圧が高くなっても痛みや自覚症状はないが、油断は禁物。放置しておくと脳卒中や心筋梗塞で命を落とすリスクが高くなる。高血圧のとき体の中では一体どんなことが起こっているのか。メタボリックシンドローム(メタボ)を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は「血圧が上がる仕組み」と「高血圧がどのように血管にダメージを与えるか」について説明しよう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている保健師の野口緑です。今回はメタボを構成するリスクファクターの1つであり、生活習慣病の中でも最も多い「高血圧」についてお話ししたいと思います。
高血圧は日本人が治療している最も多い生活習慣病です。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」によると、患者数はなんと約4300万人。国民全体の3人に1人、成人では2人に1人が高血圧になっています。
ところが4300万人のうち治療を受けている人は半分ちょっとしかいません。残りの半分近く、約1850万人は治療を受けずに放置しているのです。2人に1人は有病者という非常にありふれた病気ですし、血圧が高くなっても本人にはまったく自覚症状がなく、痛くもかゆくもない。そのため放置している人が多いんですね。
でもGooday読者ならご存じの通り、高血圧は決してバカにできない病気です。放っておくと動脈硬化が進み、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、心臓病、腎障害などを起こして命を落としてしまうリスクも高くなります。2007年に日本人の感染症以外の病気(非感染性疾患)による死亡について調べた研究によると、高血圧はタバコに続いて2番目に高いリスクファクターでした(Lancet. 2011;378(9796):1094-105.)。年間10万人前後の人が高血圧を主因とする病気で亡くなっているといいます。
また、脳卒中は一命を取り留めても体に障害が残る場合も多く、介護が必要な状態に至ることもあります。2019年の「国民生活基礎調査」によると、「要支援・要介護になる原因」で脳卒中は16.1%。トップの認知症(17.6%)に続いて第2位でした。痛くもかゆくもなくても、高血圧は命に関わる病気だということをしっかり認識してほしいと思います。
血圧150mmHgとは「水銀を150mm押し上げる力」
そもそも血圧とは何でしょうか。まず、そこからお話ししましょう。
血圧とは、心臓から送り出された血液の圧力のことで、心臓よりも高い位置にある脳の細胞へ酸素や栄養を送るために圧力が必要になるのです。俗にいう「上の血圧」は、心臓が収縮して血液を送り出すときに血管にかかる「収縮期血圧」のことです。同じく「下の血圧」は「拡張期血圧」と呼ばれ、心臓が緩んだときに、収縮期血圧によって膨らんだ血管壁が、元に戻ろうとする際に血管内の血液を押す圧力のことです。
血圧の単位には「mmHg」が使われます。前のmmは長さのミリメートル、後ろのHgは水銀の元素記号です。つまり、水銀を何mm押し上げる力かを意味しています。例えば150mmHgなら水銀を150mm押し上げる力ということ。昔のアナログの血圧計は実際に水銀を使っていました。腕を締めつけると銀色の水銀柱がグングンと上に伸びていったことを覚えている方もいるでしょう。
ちなみに、この数字に13.6をかけると水圧に変わります。150mmHgなら「150×13.6」で約2m(2040mm)。人間の身長よりも高く水を噴き上げられる力ということになります。心臓は1日に約10万回収縮しているので、直径わずか数mmの血管に水を2m噴き上げられる力が毎日10万回ずつかかっているわけですね。
脳は心臓よりも高いところにありますから、重力に逆らって血液を脳や全身の隅々まで届けるにはある程度の血圧が必要になります。だから首の長いキリンなどは大変で、血圧が300~400mmHgもあるそうです。人間の場合、120mmHgもあれば脳と全身の隅々まで血液を送ることができます。