生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は特定健診の目的と深い関係のある「細動脈」を取り上げよう。全身に血液を送るには一定の血圧が必要になるが、細胞に血液を届ける時点では大幅に減圧していなければいけない。この役割を担っているのが直径1mmもない細動脈だ。中でも脳、心臓、腎臓という重要な臓器にある細動脈は特殊な構造をしており、大きな負荷がかかっていてダメージを受けやすいからこそ、守る必要があるという。

特定健診の目的とは
こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。今回は原点に戻って、そもそも「特定健診(メタボ健診)の目的は何か?」から考えたいと思います。
日本では昭和の昔から、企業で社員の健康診断を行ってきました。これは社員に対する福利厚生という意味もありますが、本来は事業主の安全配慮義務として「病気を持っている人が不利になる仕事」をさせないことが目的です。例えば耳の悪い人に、音が聞こえないと危険な仕事をやらせてはいけないということです。つまり、「病気を持っていないか、異常があるかないかを見る」が重要な目的だったため、今でも健診と聞くと、そういうイメージが強いと思います。
それに対して、2008年から始まった特定健診は少し意味合いが違います。視力や聴力を調べることはしないし、がんを見つけることが目的でもありません。血液検査から肝臓や腎臓の異常も分かりますが、臓器の病気を発見するためだけの検査ではありません。
特定健診で重視されるのは腹囲、血糖値、血圧、コレステロール値やクレアチニン値です。その意味は「血管を守る」ということです。
これまで説明してきた通り、血糖値や血圧が高いと血管が傷つき、動脈硬化が進みます。腹囲を調べるのも内臓脂肪の量を見る(推測する)ため。内臓脂肪が一定の量を超えると血圧や血糖値を上げる“悪玉”のアディポサイトカイン(生理活性物質)が分泌されます。その結果、血管を傷つける条件「血管のリスクファクター」が増えるのですが、そういった体の状態になっていないかどうかを知るために腹囲も測っているわけです。
糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高くします。2020年の「人口動態統計」を見ると、死因の第2位は「心疾患(心臓病)」で第4位は「脳血管疾患」、合わせて30万8474人が亡くなりました。この人数は全体の22.5%に当たります。いずれも、心臓や脳の血管と関連が大きい病気です。糖尿病も何が怖いかというと血管障害が起こること。糖尿病の3大合併症(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害)は、目や腎臓や神経の障害と考えがちですが、実は、すべてそれらの臓器に関連する血管の病気です。
つまり、大切なのは、命にかかわる「血管をいかに守るか」ということなのです。
