健康診断を受けると、基準値を超えている項目があるかないかばかり気にしがちだ。しかし、そもそも健診結果は1個1個の項目をバラバラに見て一喜一憂するためのものではなく、「トータルで自分の体がどういう状態なのかを見ていく」ためのものだという。どういうことだろうか。メタボを解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は、自分の体の状態と対処法が分かる「健診結果の正しい見方」についてお届けしよう。例えば「中性脂肪」と「尿たんぱく」では、ともに基準値を超えていても、その「重み」が違うのだという。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている保健師の野口緑です。今回は誰もがおなじみの「健康診断」についてお話ししたいと思います。
会社や自治体で健康診断を受けた後、あなたはその結果をどのように見ているでしょうか? 1個1個の結果だけを見て、基準値を超えてないかどうか一喜一憂している人が多いように思います。「この項目が基準値を超えたから、病気かもしれない」「この項目は基準値以下だから、安心していい」というように…。また、血糖値、血圧、LDLコレステロール値など複数の項目で基準値を外れていると、生活の中で何を優先して改善していけばいいのか分からなくなることもあるかもしれません。しかし、そのように項目ごとにバラバラに見るのは、正しい見方ではありません。
まずお伝えしたいのは、「健診」というのは、もともと「病気の可能性があるかどうかのスクリーニング」をするものであって、それをもって「病気そのものを診断」するわけではない、ということです。健診は一定の基準である程度のふるい分けをして、トータルの健康状態を見るもの。数値が悪いところがあれば病院で詳しく検査するか、生活習慣を改める目安にする。つい1個1個の項目に一喜一憂しがちですが、トータルで判断することが大切です。
ちなみに、「健診」にはいくつかの種類があるのをご存じでしょうか。皆さんがイメージする「健康診断」だけでなく、「健康診査」も、略して「健診」です。「特定健診」、いわゆる「メタボ健診」は健康診査で、将来、脳卒中や心筋梗塞を起こすような、動脈硬化を進める可能性があるかどうかをスクリーニングするのが目的です。また、子どもが生まれたら受ける1歳半健診や3歳児健診も健康診査になります。
一方、学校や会社で行うのは「健康診断」で、通学や就労の可否、学校や会社で健康上禁止あるいは配慮すべきことを判断するのが目的です。例えば、耳の聞こえが悪いのに音で危険を判断する、例えば車が往来するような場所で作業をするのは危険なので、そういう場所の仕事に、聴力検査の結果が悪かった人を配置してはいけないと事業主に勧告する、そういう材料にするのが本来の会社の健康診断の目的です。
もう一つ、「がん検診」などは同じケンシンでも「検診」という字を使います。これは「検査診察」の略です。検診はがんなどの1つの病気に絞って罹患している可能性がないかどうかの検査でスクリーニング、ふるい分けをする目的があります。
基準値を超えていれば病気、というわけではない
ふるい分けをするには「ザルの目」が必要ですよね。目が大きければたくさんこぼすことになるし、小さければこぼす量が少なくなる。そのザルの目が基準値になるわけです。
基準値は、多くの人のデータを集めて、病気の人の割合が統計学的に多くなるところを「エイヤーッ!」と線を引いて作ったものです。だから、「基準値を超えたら、即、病気!」ということではないのです。基準値より下でも病気の人が含まれることがありますし、基準値を超えていても病気でない人が含まれる場合もあります。つまり、健診結果だけで病気を診断することはできません。入社試験で言えば書類選考みたいなもので本番はそれから。多くの場合、基準値を超えていれば「正常」とは言えないものの、だからといってそれだけで「病気」とも言えないのです。
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