生活習慣病を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説する本連載。今回は前回に続いて「腎機能」を取り上げよう。腎臓はいわば血管の塊であり、動脈硬化が進むと腎機能は低下する。いったん下がった腎機能の回復は難しいため、できるだけ下げないように注意することが大切になるという。では、そのためにはどんなことをすればいいのか? 食事や運動の注意点を教えていただこう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている野口緑です。前回は「腎機能」の大切さについてお話ししました。腎臓は血液をろ過し、体に必要なものと要らないものをより分けるという重要な仕事をしています。その仕事の中心を担う「糸球体(しきゅうたい)」という毛細血管の塊が片方の腎臓に100万個くらいずつ入っています。
ところが全身の動脈硬化が進んでくると、糸球体も影響を受けてどんどん壊れていきます。いったん壊れた糸球体は二度と元に戻らないので、腎機能はいったん下がると回復が難しくなります。働ける糸球体の数がどんどん減って、最終的に老廃物のろ過が追いつかなくなる状態、つまり腎不全になると、命をつなぐためには腎移植をするか、体外でろ過させた血液を体内に戻す治療(人工透析)をするしかなくなってしまいます。
ご存じの通り、特定健診でも腎機能は調べます。血液検査と尿検査があり、血液検査で必ず調べるのは「クレアチニン」の数値です。クレアチニンというのは、筋肉のエネルギー源であるクレアチンリン酸の代謝産物。つまり、筋肉を使った後の老廃物です。クレアチニンのほとんどが糸球体で排泄されるため、この数値が高いということは、捨てるべきゴミが血液中にたくさん残っているということで、腎臓のろ過機能が低下していることを意味します。
このクレアチニン値と年齢、性別から算出される「eGFR」(推算糸球体ろ過量、イー・ジーエフアール)が腎機能の基本的な指標になっています。日本腎臓学会が示すeGFR値による重症度区分では、60(mL/分/1.73m²)を下回ると「軽度~中等度低下」に、45(mL/分/1.73m²)を下回ると「中等度~高度低下」にそれぞれ区分されます。
しかし、残念ながら、ほとんどの人が一生涯にわたってeGFR60(mL/分/1.73m²)以上にとどまることはできません。食生活や身体活動を通じて、全身の細胞では毎日老廃物が生じますし、私たちは薬やサプリメントを摂取することもあります。それらを毎日、毎分、処理してくれているのが糸球体なので、年齢を追うごとに低下するのが自然なのです。つまりeGFRの低下は、老化現象の一つと考えると理解しやすいかもしれません。年齢に応じて眼球の厚さを調節する毛様体筋が衰えて視力が落ちる「老眼」と同様だと思うと、eGFR60(mL/分/1.73m²)を下回ってもひどく気にしなくて済むでしょう。
私はeGFRをご説明するとき、単位を%(パーセント)に置き換えて考えてみてくださいと話しています。例えばeGFR 60(mL/分/1.73m²)だった場合、糸球体は60%しか働けなくなった、つまり、100%仕事していた20歳の頃よりは減ってきたとイメージしていいでしょう(詳しくは、前回記事を参照)。尿検査の結果で分かるたんぱく尿(尿中にたんぱくが検出された状態)、またはeGFRが60未満の状態が3カ月以上続くと「慢性腎臓病(CKD)」と診断するという基準があります。その潜在患者数は1300万人以上と推計されていますが、高齢人口が増えるので、この数字は今後も増加するでしょう。
大切なことは、eGFRの低下速度を遅らせることです。壊れた糸球体は元に戻らないので、eGFRの低下を抑え、腎機能を末永くキープしなければいけません。では、そのためにはどうしたらいいのか? 今回はその対策についてお話ししたいと思います。