同じ肥満でも、あまり心配ない太り方と心臓病や脳卒中のリスクが高くなる「危険な太り方」があるという。保健師で大阪大学大学院公衆衛生学特任准教授の野口緑さんに、メタボリックシンドローム(メタボ)を解消し、一生ものの体をつくるために知っておきたいことを解説してもらう本連載。第2回となる今回は、どうしてメタボが起こるのか、肥満が原因で血糖値や血圧が上がるメカニズムと危険な肥満の見分け方について教えてもらおう。

こんにちは。大阪大学大学院で生活習慣病予防の研究をしている保健師の野口緑です。ご存じの通り新型コロナウイルスが猛烈な勢いで拡大し、再び緊急事態宣言が出されるに至りました。特に高齢者や基礎疾患のある人が感染すると重症化しやすいことが知られていますが、肥満のある人が感染しても重症化しやすいことが、最近の研究から改めて確認されています。
2020年に発表された、75本の論文をまとめて分析した研究で、39万9461人の患者を対象にしたものです。その結果、肥満のある人は新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」)にかかるリスクが1.46倍、入院するリスクが2.13倍、重症化するリスクが1.74倍、死亡するリスクが1.48倍高いことが分かりました(Obes Rev. 2020 Nov;21(11):e13128)。つまり、肥満はコロナにかかりやすくなる条件の一つといえます。
新型コロナウイルスが体内に侵入する際に付着する細胞表面のレセプター(受容体)の一つであるACE2受容体は、肺や腎臓だけでなく、脂肪細胞にも発現していることが分かっています。それに加えて、内臓脂肪型肥満の脂肪細胞では、後述するように、炎症を引き起こす物質が過剰につくられ、免疫系全体に悪影響を及ぼします。ウイルスが侵入してくると、免疫反応が激化し、誤って自らの臓器も傷つけてしまい、重症化を引き起こしやすくなると考えられます。つまり、太っている人はコロナに感染しやすく、重症化しやすく、命を落とすリスクも高くなるわけです。
今は外出自粛やテレワークの影響で太りやすい環境になっていますが、そうした状況も感染しやすさを助長してしまうことになります。逆に言えば、マスク、うがい、手洗いとともに、「太り過ぎない」ことも、コロナへの感染しやすさや、感染・発症したときの重症化しやすさを抑えるという意味で、自衛策の一つといえるのです。
内臓脂肪がたまるとどうなる?
コロナに限らず、肥満が健康に悪いことは誰でも知っているでしょう。でも一言で肥満と言っても、すべてが危険というわけではありません。肥満には、脂肪が蓄積する場所によって皮下脂肪型と内臓脂肪型があり、問題となるのは、内臓脂肪が蓄積したタイプの肥満です。みなさんもよくご存じの「メタボリックシンドローム(メタボ)」は日本語では「内臓脂肪症候群」と訳しますし、メタボの診断基準も、体重ではなく腹囲(おへそ周りの長さ)、つまり内臓脂肪の蓄積を見ています。
内臓脂肪は、言葉のイメージから肝臓や心臓などの臓器にたまる脂肪と誤解している人もいるのですが、腹筋の内側の、腸の間にある腸間膜(ちょうかんまく)というところについている脂肪のことをいいます。だから、増えるとお腹が出てくるわけですね。
では、そもそもなぜ内臓脂肪の蓄積はいけないのかご存じでしょうか?

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