私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「味覚の衰えからくる塩分の取りすぎ」です。
60代の夫婦と息子の、ある日の夕食での会話です。
息子「父さんそれ、しょう油のかけすぎじゃない?」 |
父「何を言っているんだ。ちょうどいいぐらいだよ」 |
息子「そうなの? 薄いやつなのかな。ちょっと食べさせて…うわっ!しょっぱいよ」 |
父「そうかなあ」 |
母「そうなのよ。お父さん最近すごくしょう油を使うようになって。血圧が高いんだからやめてって言っているのに」 |
息子「血圧が高いんだったら、塩分は控えなきゃ」 ![]() |
年をとると塩味は12倍感じにくくなる
高血圧の予防のために塩分の取りすぎを控える。このことは誰もが知っていることと思います。しかし、なかなかそれができない。まして高齢になって血圧がだんだん高くなってきたのに、むしろ塩分を欲してしまうことさえあります。これはなぜなのでしょうか?
その原因の1つに味覚の衰えがあります。高齢になると味覚が衰えるということをご存じの方もいると思いますが、味覚というのは均一に衰えていくわけではありません。高齢になって視力が衰えて老眼になったとき、手元が見にくくなるけれども遠くは見える。それと同じように、味覚が衰えたときも「衰えるところ」と「衰えないところ」があるのです。ではどの味覚が一番衰えるのか? それが、塩味を感じる味覚です。
味覚には塩味・苦味・うまみ・酸味・甘味というものがあります。その中でも塩味は、高齢になると若いときよりも12倍感じにくくなるという研究があります(*1)。一方、そのほかの味覚は塩味ほど感じにくくはならず、うまみは5倍、甘味は2.7倍というように、種類によって違いがあります。
普通、味覚が衰えるというと「味がしなくなる」という印象を持ってしまいます。そのため、仮に塩味だけが感じにくくなったとしても、それが味覚の衰えとは気がつかず、「料理の問題」だと思ってしまいがちです。