私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「高齢者の熱中症対策」です。
高齢の両親が住む実家にAさんが帰ってくると、暑いのにエアコンがついていません。
息子(Aさん)「え…エアコンつけてないの?! この暑さじゃかなわないよ。エアコンつけようよ」 |
父「何言ってるんだ、これくらい、たいした暑さじゃないだろう。まだまだ大丈夫だよ」 |
息子「いや、かなり暑いよ。30度超えてるんじゃない? 最近は家の中の熱中症も増えているんだから」 |
父「俺は昔からエアコンなんか使わなくても元気だから、大丈夫だ」 |
息子「いやあ…父さんもそれなりの年齢なんだから…親戚のおじさんもこの前救急搬送されたって聞いたよ」 ![]() |
熱中症で搬送される半数以上が高齢者、その多くは自宅で倒れる
夏になると熱中症が問題になります。毎年、倒れて救急車で搬送される人が後を絶ちません。今年は6月下旬から猛暑が続き、6月中にほとんどの地域で梅雨が明けるという異例の事態になっており、早くも熱中症で救急搬送される人が急増しています。特に心配なのが高齢者です。
令和3年に熱中症で搬送された4万7877人のうち、高齢者は2万6942人と、56%を占めていました。超高齢社会とは言っても、日本の高齢者人口は3割弱にとどまります。さらには若い人は屋外で肉体労働に従事したり、部活などで外で運動する機会も多い。それなのに、熱中症で倒れるのは高齢者が多いのです。
では、高齢者はどういう場所にいて熱中症になってしまうのでしょうか? 実は、最も多いのは自宅です。6割の人は自宅から搬送されています(*1)。自宅であれば、水分をとりたければとることもできる。冷蔵庫もある。暑ければエアコンをつけることもできる。それなのに、自宅で倒れて搬送される人が最も多いのです。
その理由としては「エアコンをきちんと使っていない」ということが挙げられます。自宅で熱中症になった高齢者のうち、部屋の温度を熱中症になりにくい基準温度に下げていた人は18.8%しかいませんでした。つまり、搬送された高齢者の8割以上はエアコンを使用していないか、使用していたとしても室温を十分に下げていなかったのです(*1)。
エアコンを使わない理由として多いのが、「エアコンを使うと体に良くない」という考え方です。私の周りの高齢者にも、そう信じている人が多いです。もちろん、過度に体を冷やすのは問題がありますが、それを避けるために熱中症になってしまっては本末転倒です。「いくら体に悪いと思っていても、熱中症になるほどつらいならさすがにエアコンをつけるのではないか?」と思う人も多いでしょう。熱中症になるほどつらいときも、なぜ高齢者はエアコンを使わないのか。そこには「体に良くない」という思い込みだけでなく、医学的な理由があったのです。