私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「眼瞼下垂(がんけんかすい)」です。
先日60歳になったばかりのAさんが、友人のBさんと話しています。
A「最近右目のまぶたが下がってきて…見た目の印象も変わって、年を取ったんだなあって感じるよ」 |
B「でもそういうのって、年のせいだけじゃなくて怖いこともあるみたいだよ?」 |
A「そうなの? じゃあ一応病院に行ってみようかな」 |
(1カ月後) A「この前はありがとう」 |
B「どうだったの?」 |
A「おかげで命拾いしたよ。あのままだったら脳出血を起こしていたかもしれないって」 |
B「えー!」 ![]() |
まぶたが下がるのは見た目の問題だけではない
年を取るとまぶたがだんだん下がってきて、重たい感じがします。そのため「まぶたが下がるのは年のせい」と思って放置するのが一般的です。「まぶたの下がり具合が気になるけれど、見た目を気にしているようでなかなか言い出せませんでした」。外来でそのように話してくれる患者さんもいます。けれども、まぶたの下がりは見た目だけの問題ではありません。ときに命に関わる病気が隠れていることもあります。
まぶたが下がって目が開きにくくなった状態を、医学的には「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と呼びます。まぶたの皮膚や脂肪は、眼瞼挙筋(がんけんきょきん)という筋肉が持ち上げています。一般的な加齢によるまぶたの下がりは、この眼瞼挙筋の力の低下、および皮膚のたるみなどによって起きます。けれどもまぶたの下がりにはそれ以外に、「脳動脈瘤」などの命に関わる病気や、「重症筋無力症」などの病気が隠れているケースもあります。
なぜ、まぶたという目の周りの症状が命に関わってしまうのでしょうか?
それは、まぶたを上げる眼瞼挙筋が動眼神経という神経に支配されているからです。この神経がうまく働くことで、まぶたを上げることができます。この動眼神経のある場所に脳動脈瘤ができやすいのです。脳動脈瘤ができてしまうと、その動脈瘤が動眼神経に当たり、動眼神経がうまく働かなくなることで、まぶたが下がってしまうのです。脳動脈瘤が原因の眼瞼下垂では、「片方のまぶたが強く下がる」、「目の動きが悪くなって、ものが2つに見える」、という症状が起こることがあります。
一方、「朝方はそれほどではないが、夕方になるとまぶたが落ちてくる」という人に考えられるものとして「重症筋無力症」という病気があります。これは、まぶたを上げる筋肉を動かそうとする神経のうち、脳に近い動眼神経ではなくて、末梢、つまり端っこの方の神経に問題がある病気です。タイプにもよりますが、重症筋無力症は呼吸するための筋肉にも麻痺を起こし、呼吸困難を引き起こすこともあります。
このように、たかがまぶたの下がりと思わず、特に「片方のまぶたが下がる場合」「夕方になるにつれてまぶたの下がりが強くなる場合」などは注意が必要になります。とはいえ、まぶたの下がりはどの程度が異常なのかの見分けはつきにくいものです。そこで、まぶたの下がり度合いを自分でチェックする方法をご紹介します。