私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「白内障」です。
50代の会社員Aさんと、同僚のBさんが会話をしています。
A「最近老眼でさ、見にくいんだよね」 |
B「50代にもなってくるとそうだよな」 |
A「結構まぶしかったり、月が2つ、3つに見えたりして。まあ大丈夫か」 |
B「一応眼科に行ってみたら?」 |
~ 眼科にて ~ A「最近老眼で見にくいので、メガネを作ろうかと思って来ました」 |
医師「そうですか、見てみましょう…これ、老眼というよりは白内障ですよ」 |
A「えっ? 私まだ50代ですよ?」 |
医師「50代でも白内障は50%の人がなる病気なんですよ」 ![]() |
50代の半分、80代の99%がなる白内障
白内障というと、高齢者がなる病気というイメージがあるかもしれません。しかし白内障は50代でも半分(37~54%)の人がなっています(*1)。こうお話しすると「それは大げさでしょう」と言われます。白内障で手術をする人は50代で多いという実感がないからです。手術まではいかないものの、白内障というのは、50代でも実際にあるのです。では軽い白内障だとどういう症状が出るのでしょうか?
白内障というのは、目の中でレンズの役割を果たす水晶体という部分が、白く濁る病気です(図1)。白内障の症状といえば「視力低下」というイメージがあるかもしれません。確かに多くの人で視力が低下するのですが、それはある程度進行してからです。

白内障で、視力が低下する前に起こることとして「コントラスト感度の低下」が挙げられます。コントラスト感度が低下すると、色の濃淡の差が少ないものを見たときに、色の違いを感じにくくなります。特に、黒地に青や、黄地に赤で書かれたものを認識しにくくなります。
黒地に青というと、身の回りにあるものではコンロの火が当てはまります。コントラスト感度が低下していると、火がついていることに気が付かず、やけどをする危険性があります。黄地に赤というのも、注意書きなどでよくある色使いです。重要なメッセージなので注意を引くために黄と赤を使うのですが、その文字の識別が難しくなり、読み飛ばしてしまう恐れがあります。
また、通常の白地に黒の文字も、以前よりは見にくくなります。とりわけ薄暗い夕方などは、目に十分な量の光が入らず、読みにくさを感じます。そのため、以前より目が疲れやすくなってしまいます。白内障がある程度進むと、まぶしさを感じる、ものが二重三重に見える、視力の低下といった症状が出てきます。