私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは、親の介護でトラブルになりがちな「物盗られ妄想」です。
離れて暮らしていた80代の母親が、認知症のため介護を必要とする状態に。「長男だから」という理由で長男夫婦が同居し、主に長男の妻が介護を担当することになりました。
長男の妻「ごはんの用意ができましたよ。食べましょうね」 |
母「私の財布がなくなったんだけど」 |
長男の妻「そうなんですか?」 |
母「そうなんですかって、あなたが盗ったんじゃないの?」 |
長男の妻「盗ってなんかいませんよ」 |
長男「ただいまー。どうした?」 |
母「この子が私の財布を盗ったのよ」 |
長男「お前、財布を盗ったのか?」 ![]() |
親の介護ははたして何年続くのか?
親が高齢になると、介護の問題を避けることはできません。もちろん健康に一生を過ごし、介護を受けることなく「ピンピンコロリ」で亡くなる親もいるわけですが、その確率は高くありません。公益財団法人生命保険文化センターによれば、介護を受ける確率は70代後半で12.6%、80代前半で27.0%、80代後半以上で59.3%となります。厚生労働省の簡易生命表によると、親が既に70歳なら、その時点での平均余命は男性なら85歳、女性なら89.5歳です。ということは、仮に現在、両親・義理の両親が全員70歳だとすれば、父親の3割弱、母親の6割は今後介護を受けることになると考えるのが妥当です。母方・父方の両親が一人も介護を受けない確率は計算上1割程度ということになります。
ではいざ介護が始まったら、どのぐらいの期間続けることになるのでしょうか? 参考になるのが「健康寿命」と「平均寿命」という考え方です。平均寿命とは0歳時点の平均余命のことで、一般に何歳まで生きられるかを統計から予測したものです。では健康寿命は何かというと、健康上の問題で日常生活が制限されることなく、自立した生活を送ることができる期間です。つまり、平均寿命から健康寿命を引いた差が「健康的に過ごせていない期間」であり、「要介護、あるいは要介護まで行かなくても何らかの問題を抱えている期間」と考えられます。
2016年の日本の男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳であり、その差は8.84年。女性の平均寿命は87.14歳、健康寿命は74.79歳で、その差は12.35年となっています。よって、介護期間は10年を見込んでおくのが妥当かと思われます。