私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「高齢者の運転免許返納」です。
70代の父親と40代の息子が、高齢ドライバーの事故のニュースを見ながら話しています。
息子「父さんもそろそろ運転を控えたほうがいいんじゃないの?」 |
父「俺は年寄りだって言いたいのか?」 |
息子「そうじゃないよ。ただ最近はこういう事故も増えているし。他人を巻き込んでからじゃ遅いだろ。父さんだってこの前、少し縁石に乗り上げてたじゃないか」 |
父「あれはたまたまだろ」 |
息子「一応俺も心配しているんだよ。どうかな」 |
父「俺は運転には自信があるし、まだ大丈夫だ。もうちょっと年を取ったら考えるかな」 ![]() |
親が70歳、80歳と高齢になるにつれて、見ている家族は運転に不安を覚えるようになります。「そろそろ運転はやめたら」。あなたはそういうふうに言いますが、親は「ああ、分かった」と言うものの、一向にやめる気配はありません。自分の父は、母は、頑固で言うことを聞いてくれないから…と思っているかもしれませんが、理由はそれだけではありません。
自分の年齢を実年齢より2割引きで考えてしまう習性
高齢者が運転免許を返納しない理由は何でしょうか? 平成17年の警察白書によると、免許返納を考えたことがあるものの実際には返納していない理由として、「代わりの交通機関がない、不便だから」と答えた高齢者が46.3%に上ります。この理由は納得できます。代わりの交通機関がない以上、「免許を返納したら生活が成り立たない」と思っているので、いくら言っても聞く耳を持ってくれないわけです。でもそれより多いのは57.4%の高齢者(複数回答可のアンケート)が選んだこの理由です。「運動能力の低下は感じているが免許を返納するほどではない」。つまり、やむにやまれぬ事情よりも、自分はまだまだ運転能力があると思っているために免許を返納しないという理由の方が多いのです。そこには高齢者が自分はまだまだ若いと考える特性が関係しています。
このコラムを読んでいるあなたはいくつでしょうか? 年齢を考えると「だいぶ体にガタがきたな」「年を取ったな」と思うことがあるものの、実際のところ「まだまだ若い」と思っていないでしょうか?
ある研究(*1)では、人間は40歳を超えると年齢を2割引きして考えるということが分かっています。40歳だと32歳、50歳だと40歳、60歳だと48歳というような気持ちになります。自分にも当てはまるような気がする、という読者の方も多いかもしれません。
私自身も、なんとなく実年齢より若い気持ちで過ごしています。まだまだネットやSNSにもついていけているし…と思ってしまうのです。けれども実際にTikTokについていけているか? 新しい流行を追えているか? というと、実はそうでもありません。