猛スピードで開発された新型コロナワクチンは、どう効くのか?
『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より(後編)
峰宗太郎、山中浩之
編集Y 体内で増やすほうはどうでしょう。
峰 従来のワクチンだと、何で作ればいいのか、精製法はどうなのか、といった製造や精製の工程がありましたが、それらはすべてすっ飛ばして、DNAなりRNAなりを合成したら、理屈の上ではあとはDDSを考えて加工して打つだけ、です。
編集Y あとは打つだけ……って。そうか、核酸ワクチンやベクターを使ったワクチンは、打った人の体の細胞を工場にするわけだから。
峰 そうなんです。「ヒトの身体に作らせるだけ」とも言えるので、最適な設計図を打ち込めればいい、ということなんですよね。
今回のワクチンの開発「競争」は、こんな状況下で始まりました。新しい技術でSARS、MERS対応を考えていた、RNA、DNA、およびウイルスベクター関連の研究所や会社がスタートダッシュをかけて、目立つのはそういうところばかりです。

編集Y さきほどおっしゃっていましたが、従来のワクチン開発のおよそ10 倍速で進む大きな理由は、治験(テスト)期間の短縮なんですよね。
リスクは承知、威信をかけて開発レース
峰 ワクチンの開発レース、特に核酸ワクチンの場合は「どこが最初にワクチンを開発するか」という、科学大国ぶりを見せつける効果を狙っているところもあるように思います。言わせてもらえば「スプートニクと一緒」だと。実際、ロシアの新型コロナワクチンのコードネームは「スプートニクV」ですね。一方で、不活化ワクチンや成分ワクチンが出てくれば、こっちは安全性や副反応については経験からおおむね「予測」ができるものなんですね。こちらが上市(販売)されるのは、2021年の夏か秋になっちゃうと思うんですけれど……。
編集Y じゃ、ワクチン3兄弟のうち「生」はともかくとして、不活化ワクチン、組換えワクチンの開発はどうなっているんでしょう。
峰 やっているところはちゃんとやっているんです。ただやっぱり遅いんですね。今までのペースより速いとはいえ、テクノロジーの波に乗っていない分、遅い。ということで報道があまりされない、みんなも注目してくれない。
編集Y なるほど。ワクチン開発の歴史をひもといていただくと、今の新型コロナワクチンの開発競争が違った目で見えてきますね。図らずも最先端の開発と需要がマッチした。オーソドックスなほうにはどうも注目が集まらない。ということは、リソースも割かれていないのかもしれない。
でも、遺伝子工学発祥のちょうど間に合いそうな新技術があること自体は、幸運、とは言えないんでしょうか。
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