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知っておきたい新型コロナワクチン 基礎の基礎

『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より(前編)

 峰宗太郎、山中浩之

 10の68乗よりも上ですね(笑)。細胞の中の遺伝子はマスターとも言うべき設計図なので基本的に変化しないと長い間思われていたんですけど、免疫細胞だけは自分の細胞内の遺伝子を変化させられるのです。これによって、病原体に対する武器(抗体やT細胞受容体)に様々なパターンを作っている。解明したのは利根川進先生の時代の人たちなんですね。

編集Y 1975年か……(まさに小学生で無量大数を覚えたころだ、と遠い目)。

 そうやって大量に用意されたパターンの中の対応するものが、一度刺激を受けると、特異的に増えるんですね。そうすると、そのパターンに当てはまるものに対して準備ができたことになる。さらに増えた後、一部は記憶細胞としてずっと生き続けるようになるんです。

「何も生きたウイルスじゃなくてもいいじゃないか」

 さて、それまではウイルス、病原体をいかに弱毒化するかというのがワクチン開発の手段であり目標でした。これを「生ワクチン」と言います。しかし、実は免疫側はすでに準備が整っていて、いろいろな病原体に適応するパターンを準備してあることが分かった。ということはこの免疫系を正しく刺激すれば、「二度なし」を人工的に起こせるんじゃないか。と、発想のチェンジが起こってくるわけです。

編集Y ん? よく分かりません。

 つまり、それまでは「生きたウイルスそのもの」を弱毒化して体内に入れるしかなかったのが、免疫系が「これはウイルスだ、迎撃準備をしよう」と認識さえできれば、効果があることが分かった。

編集Y はい。

 ということは、身体に打ち込むウイルスが生きている必要はないし、人間には害がなく、免疫系が「ウイルスだ」と認識(実際には誤認)できる成分だけを注入することができれば、感染リスクなしで機能するワクチンが作れるんじゃないか、ということです。

ワクチンの主流「不活化ワクチン」とその限界

 なので、まずウイルスをホルマリンとかに漬けて「殺しちゃう」んです。まあ、もともとウイルスは生物かどうか微妙なんですけど、とにかく体内で増えないようにする。その成分をきれいに精製して、成分だけを打ってみたわけです。そうしたら実際に感染・病気が防げることが分かってきた。これが「不活化ワクチン」です。ただし……。

編集Y あ、「ただし」付きですか。

 不活化ワクチンでは実際に身体に感染が起こるわけではないので、免疫系の反応が若干弱いんです。反応が薄かったり、効果が長く続かないことも分かってきたんですね。例えば、3年ぐらいは続くんだけど4年後にはまた感染してしまう可能性がある。これは何が理由なのかの研究が進み、だったら免疫系への刺激を強く与えてあげればいいんじゃないかという発想で、「アジュバント(Adjuvant)」というものが考えられました。

編集Y 効果促進剤ってことですか?

 そうそう。ワクチンの成分と同時に打ち込んで、免疫系を刺激してあげるんですね。言ってしまえば、「大変だ、これは本当に感染した」と勘違いさせるようなものでしょうか。

編集Y アジュバント少年が「オオカミが来たー!」みたいに騒ぐわけですな。

 かくして世界の主流は不活化ワクチンになったわけです、一度は。

編集Y え、不活化ワクチンに、何か問題でも?

 不活化ワクチンというのは、ウイルスを増やさなければ作れないワクチンです。例えばインフルエンザウイルスのワクチンは、まず鶏の卵にインフルエンザウイルスを入れて、わーっと増やすんですね。そこからウイルスの粒子を取り出してきて、ホルマリンなどで殺して、精製して打っているんです。今でもこれでやっています。

 その後、70年代以降のバイオテクノロジーの急速な発達が、新たなワクチンを生み出します。「ウイルスを増やさなくても、ウイルスの成分の1つだけを人工的に作って打ったらどうだろう」という発想が出てくるわけです。

 これが「組換えワクチン」、もしくは「成分ワクチン」「コンポーネントワクチン」などといわれるもので、例えば、「あるウイルスの表面に飛び出している突起の設計図」を用意して、それを酵母とか大腸菌とか昆虫の細胞とか、あるいはヒトの細胞で、人工的に増やす。その細胞を全部殺してタンパク質を精製すると、ウイルスの一部だけの成分ができる。

 これをヒトの身体に打ち込んだら、ちゃんと免疫ができました。ただし不活化ワクチンとまったく同じ理由で刺激が弱い。なのでアジュバント、接種スケジュールなどの方法論がどんどん発達しました。ここまでがワクチンとしてはオーソドックスな、「ワクチン3兄弟」です。

編集Y 生、不活化、そして成分ワクチン(組換えワクチン、コンポーネントワクチン)。

 ところが遺伝子工学がさらに発達すると、またまた新たなアイデアが出てきたんです!

編集Y そ、そうですか(やや気押され気味)。えーと、今度は何でしょう。

 Yさん、新型コロナ用ワクチンの話は、いよいよここからが本番なんですよ。

(後編に続く)

新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

峰宗太郎、山中浩之 著

 Twitterで5万人のフォロワーを持つ米国研究機関在籍の若手ウイルス免疫学者、峰宗太郎先生が、対話形式でとっても分かりやすく、そして時には辛辣に、新型コロナと人間の免疫系、そしてワクチンを巡るさまざまな問題について語ります。
 メディアやネットの情報に踊らされず、パニックを起こさず、冷静に自分の頭で判断するための科学的トピックが満載です。

峰宗太郎(みね そうたろう)さん 医師(病理専門医)、薬剤師、医学博士。病理学、血液悪性腫瘍・感染症の病理診断、ウイルス学、免疫学。予防医療普及協会顧問。
1981年、京都府生まれ、京都大学薬学部、名古屋大学医学部医学科卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、2018年より米国立研究機関博士研究員。国内外で得たスタンダードな医療知見のもと、SNSやブログで正しい医療情報を発信している。
山中浩之(やまなか ひろゆき)
1964年、新潟県生まれ。87年日経BP入社。以来、日経ビジネス、日本経済新聞社証券部、日経クリック、日経パソコンなどを経て、現在日経ビジネス編集部でウェブと書籍の編集に携わる

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