人生後半戦を消耗せずに歩むための心のトリセツ連載。今回は、ミドルエイジ世代が直面しやすい「怒り」について考えてみたい。「感情の中で、最初に破綻するのが、怒り。怒りは勢いが強く、制御するのが難しい感情です」と、元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さん。特に、年齢とともに私たちは怒りの扱い方が下手になっていく。「自分は冷静なタイプ」と思っている人ほど、知っておきたい怒りの機能や性質について解説しよう。

年齢を重ねると怒りの制御が下手になる
人生後半戦を穏やかに生き抜いていくために最も大切なこととして、ここまで「疲労のケア」を学んできました。次に知りたいのが、メンタルの整え方です。年齢とともに、ストレスに敏感になった、イライラしやすくなったという人が多いのではないでしょうか。
下園さん 確かに、若い頃と中高年になってからでは、メンタルの取り扱い方が変わってきます。今、読者の世代の方が直面しているのは2つのことだと思います。
まず、「体力や気力、エネルギーの低下」です。仕事のスピードが落ち、新しいことに適応するのがおっくうになるとともに、チャレンジ意欲が低下してきます。
もう一つ、同時進行で起こるのが、「ストレス耐性の低下」。感情を抑えるスピードが低下します。特に、感情の中でも、「怒り」は瞬発力が強く、その力も大きいために、怒りに乗っ取られやすくなります。
今回のコロナ禍でも、感情の中で最初に破綻したのが「怒り」でした。特に感染が拡大し始めた頃は、周囲の人が病原体を持っているかもという警戒心がふくらみ、社会がイライラで覆われていました。誰もがイライラし、イライラすることによってエネルギーを消費し、さらにイライラが増幅する……という悪いサイクルが起こりました。
多くの経験を積み、どうすればよいかを理論立てて言うことができるような冷静な人でも、いざ怒りに乗っ取られると冷静さを失いますよね。
下園さん いわゆる仕事人間は、論理的思考に頼りすぎる、というデメリットがあります。もちろん、論理的に考えるのは悪いことではありません。ただ、それだけで割り切れるほど、人間は単純ではありません。人は論理で動くのではなく、疲労などの心身の状態や感情で動くもの。この、生身の人間に対するデータが不足していると、人に対する考えをなかなか修正できません。ミドルエイジ世代は、これまでの経験の蓄積によって「価値観」が凝り固まって頑固になり、自分が正しい、と思うこと以外を受け容れにくい傾向があるため、怒りっぽくなります。
価値観を見直していくためにも、「自分も疲れると怒りやすくなるなぁ」ということを知り、「どうすればこの気持ちを緩めていけるかな」と考え、ぜひ練習を始めていきましょう。