定年後を見据えて新たな人間関係を築くとき、「プライド」が邪魔をすることがあります。勤務先の名前や肩書をさりげなく主張したくなったり、相手に少しでも自分を良く見せようと虚勢を張っては自己嫌悪に陥ったり――。元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんに、私たちがプライドにしがみついてしまう心理と、バランスの良いプライドの手放し方を聞きます。

人間には「苦しくなければ変われない」という原則がある
前回は、人付き合いが得意ではない“付き合いベタ”の人が新たなつながりを作りたいと思ったときの心構えを教えていただきました。その中に出てきた、「仕事をしているときと同じような価値観を押し通そうとして、エネルギーを注ぎすぎた結果、孤立するケースが多い」という話はいかにもやってしまいそうだと思いました。
組織で当たり前のように共有されていた価値観や目標を失うのが「定年後」です。このときもう一つ、手放さなくてはならないのがプライドではないでしょうか。プライドが強すぎると仲良くなれそうな相手から敬遠されたりします。でも、自分を良く見せたいと思う気持ちは誰にでもあるはずです。今回はこの厄介な「プライド」との付き合い方をお教えください。
下園さん おっしゃったように、プライドを持っているということは「自信」につながる大切な要素でもあります。ところが、プライドばかり主張していると「圧の強い人」になってしまい、気がつくと誰もそばにいなかった、なんてことになりがちです。
まず、お伝えしたいのは、人間には「苦しくなければ変われない」という原則があるということ。そう、苦しいと思わない限り、人は変われないのです。
どういうことかと言うと、周囲から疎まれていても、苦しいと思わない人もいます。「別に嫌われてもいいけど?」というタイプ。そういう人はそもそも悩まないし別に変わる必要もないわけです。周囲は大変でしょうけれどね。人間関係に振り回されるよりおひとりさまでいるほうが楽だ、という人は人付き合いを無理にする必要がないのと同じです。
しかし、今回のテーマをご覧になって「読んでみたい」と思ってくださった人は、周囲から疎まれると苦しい、と感じる人でしょう。
例えば、心の中では新たなつながりが欲しいと思っている。定年後、パソコンやテレビばかり見る日々が続きそうだし、孤独にならないために変わらなきゃ、と思って何らかの会合に参加してみたけれど、「気位が高い人」と敬遠されて落ち込んでいるような人です。そういう経験をした人は、悩んで、苦しんで、変わっていくことができます。
プライドの難しさは、それがあることで自信を膨らませることができるというメリットがある一方で、それが鎧のように自らを防御するあまりに、「変わりたい」と頭の中でちょっと決意したり、ちょっとコツを仕入れたぐらいでは簡単に変われないところにあります。でも、苦しいと思い、本気で悩んだ人であれば変われます。