50代以降になると、経験年数が長い分、「自信」や「プライド」が強くなり、その一方で、価値観を変えることが難しくなってくるもの。だからこそ、これから大きく環境が変わっていく人生後半戦に向けて「柔らかい価値観」を育てていくことが必要になります。「なかでも特に重視したいのが、疲労に対する価値観を見直すこと」と、元・陸上自衛隊心理教官で心理カウンセラーの下園壮太さん。第4回では、「疲労を素直に認めること」の意味について教えていただきます。

私たちは「疲れの本質」を知らない
この先の人生後半戦では、「大きな環境変化」と向き合うことになること、そしてその際に、あまりに自分の価値観を頑固に持ちすぎると、その変化にうまく対応していけない可能性がある、ということがこれまでのお話でよく分かりました。「自分の価値観をほぐしてみたい」と思ったとき、どんなことに目を向けていけばよいでしょうか。
下園さん シニア期に向けて準備を始めよう、というときに、「新しい趣味を探そう」とか「5年後の目標を決めよう」というふうなことが頭に浮かぶかもしれません。しかし、何よりも重視していただきたいのは、「疲労」のメカニズムを知る、ということです。
「疲労」を知ることが大切。その理由から教えていただけますか。
下園さん 私は、自衛隊で、隊員の精神面をケアする「心理教官」という役割を与えられ、さまざまな場面で隊員のパフォーマンスを観察し、それを効果的にケアする方法を探ってきました。そこで気づいたのは、メンタルケアの際に最優先で取り組まないといけないのが「疲労のケア」だ、ということだったのです。
自衛隊の隊員は、地震や津波、豪雨といった自然災害の後の救援活動に派遣されたり、ときには海外の紛争周辺地域にも出動します。肉体的、精神的にストレスフルな場に直面することも多い。現場ですみやかに状況を把握し、自らを客観的に分析し、任務を遂行する、というのは、たとえ普段からトレーニングしている人間であっても、とても難しく、厳しい仕事です。鍛えられてきた隊員でも、活動を継続しているうちに、集中力がなくなり、ミスをし始め、協調性がなくなり、けんかを起こしやすくなるのです。
「人間は、疲れると性格も変わるし、体調も悪くなってしまう」。
この、基本中の基本である人間の特性を、私たちはどうしても忘れがちです。
そこで、軍隊組織では、時にクールなほど、疲労のコントロールを重視するのです。災害派遣で、ここまでやりたい、やらなければ……と隊員が思っていても、むしろ、そのように感情的になってしまう現場であるほど、指揮官はきちんと時間通りに撤収し、休息の時間を確保します。
後ろ髪を引かれたり、中途半端な判断をすると、心身の疲労を引きずり、かえって危険を招きかねないからです。だから、責任範囲を決め「できること、できないこと」を決めることで、仕事に区切りをつけます。指揮官とは、「任務を遂行させることが任務である」と思っている人も多いかもしれませんが、長期戦を見据えて、「やらない」というつらい決心をする係でもあるのです。
なるほど……。ストレスや危険が常に隣り合わせの厳しい現場だからこそ、「疲労を正しく知り、それに対し適切な対策をする」ことが、命を守ることにつながり、後々のダメージを防ぐのですね。自分の生活にも当てはめられそうです。
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