50~60代で、まだまだ仕事が現役の人でも、年齢とともに、体力や気力の低下と並行してじわじわと低下するのが「自信」。疲れから回復しにくくなったり、仕事のパフォーマンスが落ちたりするなど、「自信低下」の要因も積み重なりがちです。元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんは、「エネルギーを消耗しすぎることなく自信を回復していくには、“正しい順番”があります」と言います。順番を間違えてしまうとどうなるのか、自信を回復させる具体的方法とは何かを聞いていきます。

コロナ禍のオーバーワークで自信低下、うつ状態の人が急増
前回は、自信には、「自分はこれができる」という第1の自信、「自分の能力や生き方はこれで大丈夫」という第2の自信、「自分は愛され、居場所もある」という第3の自信という「3つの自信」があるということ、そして、第1、第2、第3の自信それぞれが私たちの考え方や行動に影響を与えていることを教えていただきました。
「自信がなくなる」という状態は、危険なことに遭遇する確率を下げるために人間が培った大切な生き残り戦略である、という新鮮な考えにも触れることができました。
自信は50代以降になるとじわじわと低下していきがちなだけに、なんとか自信低下を防ぎ、さらにはうまく回復させていきたいもの。下園さんは、自信を回復するには「正しい順番」があり、間違えると状況を悪化させてしまうケースも少なくないと話します。そこで今回は、自信を回復する「正しい順番」について詳しく伺っていきたいと思います。
下園さんのカウンセリングの現場で、「自信低下」が関わって調子を崩してしまっている人はいるのでしょうか。
下園さん たくさんいます。特に最近は急増しています。例えば、こんな人がいます。
コロナ禍でずっと頑張って、オーバーワークを重ねてきた。ある朝初めて、「今日は職場に行きたくない……」とざわざわする感じがした。なんとか午前中の会議は乗り切ったけれど、午後からぱったりと頭が働かない。気がつくと同じ作業を何回も繰り返している。気持ちが悪くなり、トイレで戻してしまった。その後、1週間たっても調子が戻らない、と言って相談に来られました。「こんなふうになってしまったのは初めてで、クリエイティブな発想が全く浮かびません。自分は職場の足手まといになっている」と繰り返します。
ああ、なんとなくそういう気持ち、分かる気がします。
下園さん もう自分は元のように働けないかもしれない、解雇されるに違いない、と、うつ的思考がばーんと出てきて、本人はすごく慌てるのです。
これは、自信でいうと、できる、できないの「第1の自信」、自分の性能に関する「第2の自信」、さらに自分の居場所があるという「第3の自信」までも低下していることを示します。前回、「視力が低下しただけで人の自信は低下する。それは猛獣をやっつけられないことを意味するから」とお話ししましたね。オーバーワークで疲労がたまりきった状態はまさにエネルギーが底をついているわけですから、本能は、その人を休ませるために無力感、絶望感をかきたてるわけです。つまり自信のなさが極まった状態。本人はつらいです。
今のコロナ禍の状況では、そういった人は多くなっているのではないでしょうか。
下園さん ここ最近、調子を崩している人のカウンセリングが急増しています。仕事の不安定さ、勤め先の業績を心配する気持ち、自分の周囲や勤務先が「コロナを乗り越えるために頑張るぞ」と一方向に進んでいるにもかかわらずそこについていけなくなった挫折感など。頼りたい周囲の環境もこれまでと違い、イライラしている人が多かったりします。身近な家族や恋人も消耗している。スムーズな自信回復を阻む要素が雪だるま式に積み重なっているのです。