読者の中には、今まさに人生後半戦の只中に突入しようとしている方も多いでしょう。元・陸上自衛隊心理教官で心理カウンセラーの下園壮太さんは、「最前線から降りて、これまでとは少し違う生き方を見いだしていく退却作戦を着実に進めるには、メンタルの整え方を改めて見直す必要があります」と話します。第2回では、定年が平均で55歳である自衛隊で下園さんが見聞きした先輩たちのエピソード、そして下園さんが退職後に直面した体の変調から気づいたことを教えてもらいます。

大きな環境変化を覚悟しよう
前回記事「人生後半戦を消耗せずに生きるには まず『3つの変化』を知る」では、ミドルエイジ以降は体の変化と同じようにメンタル面でも意欲やストレス耐性が落ちてくることを教えていただきました。シニア期へと移行する中で、「自分の中から何かが失われていく」という事実をあまり認めたくないのも正直なところです。しかし、目をそらしてばかりいると、「自分はいつのまにか年老いて不幸になってしまった」という被害者意識が大きくなる、というのは衝撃でした。今回は、前回に引き続き、現実から目をそらして「何もしない」ことへのリスク、というところからお話しいただきたいと思います。
下園さん 実は、「何もしないリスク」については、私は自衛隊に在職していたときから、先輩方の退職後のエピソードを聞いて、ひしひしと実感していたのです。
自衛隊は定年が早く、平均で55歳という「若年定年制」を採用しています。このため、次の働き口を探す再就職斡旋プログラムというありがたいシステムがあります。しかし、再就職し、新しい職場に移った先輩からは、あまり満足できていない、という声を聞くことのほうが多かったのです。
自衛隊は規律正しい組織。真面目な人が多く、真面目ゆえに、「与えられた内容以上の仕事をする」人が多いのです。もちろんそういった姿勢は再就職先でも評価を受けますが、その一方で、「なんでそんなことまでするんですか? 私たちまで、それをやらなくてはいけなくなるじゃないですか」と反発を受けてしまうことがある。「よかれと思って、正しいことだと信じて頑張る」ことが空回りし、それまでの自分を否定されたように感じて大きなショックを受けます。うつっぽくなったり、適応できず辞めてしまう人も意外と多いようでした。
自衛隊、というと体はもちろんメンタルも強靱な人が多いのでは、と思っていました。職務自体がストレスフルですよね。
下園さん いや、みなさん「自衛隊はストレスが大きい。だからメンタルも強い人ばかりだ」と思ってらっしゃるんですけど、そうでもないんですよ。なぜなら、全部が「決められている」からです。服装が決まっているから、今日は何を着ていこうかと悩まなくて済む。日課も、仕事の内容も決められている。階級別に職務の範囲も細かく定められているので、決定権を持っている人が誰なのかが明確で、従いさえすれば責任は全てその人にとってもらえる。「決めなくていい、という点から見れば楽だよな」という見方もできるわけです。
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