同年代で早期退職する人や、定年に向けて行動を始めた人の話などを耳にすると「自分は一体いつまで仕事をしていくのだろう」「定年後、何をしたらいいのかわからない」など、焦りや不安を感じ、モヤモヤした気持ちになる方もいるでしょう。「50、60代以降になると、体力や気力ががくんと落ちます。そんな自分の老化も踏まえて、また、これからの社会の大きな変化を見据えた上で、今後を考えていく必要があります」と、元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんは言います。「定年後」の生き方について少し立ち止まって考えるための手順を聞きます。

メンタルヘルスは「老後の一番のリスク」である
50代、60代になると、同世代の間で定年後の「セカンドキャリア」について話題になることが多くなります。中には早期退職する人や、移住する準備をする人など、着々と行動する人がいる一方、「セカンドキャリアというようなキラキラした世界は目指してない。もちろん老後について考えなければいけないことはわかっているけれど、日々の忙しさに流されて後回しにしている……」という人も多いはずです。
下園さんのもとにカウンセリングを受けに来られる方で、定年後の生き方や仕事をやめるタイミングについて悩みを感じている方はいますか?
下園さん そうですね、相談に来る方で「仕事をやめたい」と切迫感を持っている人は、疲労やうつで追い込まれていることが多いです。一方、「何か対策を打たないといけないのはわかっているものの、この先どうしたらいいかわからない」という悩みは、目下のところは生活も安泰で、ある程度選択肢もある、という人の場合に多いですね。経済的な破綻が目の前にあるようなときには「早期退職しようか、それともこのまま仕事を続けようか」と迷う余裕も選択肢もありません。「この先どうしたらいいかわからない」という人は、ある程度の余裕がある人。そして、ちょっと厳しい言葉で言うと、悩んではいるものの本当には考えていない、「考えるふりをしている」状態に近い人が多いといえるかもしれません。
なるほど、テーマはあるものの、何をどう考えればいいかがふわっとしていてはっきりしていない、景色も見えていないという感じでしょうか。
下園さん そう。そういう人の多くは、「定年後も老後も、今までの延長線上を歩んでいけたらいいな」と漠然と思っているかもしれません。しかし、知っておいていただきたいのは、現在50代、60代の人はこの先、社会が大きく変わっていく中で老後を迎えていくということです。後でも話しますが、年金問題一つとっても、両親世代と我々の老後は状況が変わってきていますし、コロナ禍でキャッシュレス化やオンライン化が急速に浸透したように、科学技術の急激な進歩とともに、人々の暮らし方や仕事のあり方はますます大きく変わっていくでしょう。
そうでなくても、現役のときと定年後(老後)では、その人を取り巻く環境は大きく変わります。目標を失ったり、社会から疎外されているように感じるようになり、メンタルを良い状態に保つのはなかなか難しくなります。そうした意味で、実は、私は「メンタルヘルスは老後の一番のリスク」と考えています。老後に関して考えるとき、もちろんお金や身体面の健康について考えることは重要です。でも、お金や健康のリスクに関してはみなさん理解していて、何らかの準備をしているし、国も特定健診やがん検診など方策を講じたりしています。しかし、メンタル面はどうでしょう。ノーケアです。すべて個人に任されているのです。