まだまだ若い、自分は最前線にいる。そう思いたい気持ちもあるけれど、少しずつ忍び寄る心身の変化に戸惑うのが、ミドルエイジ以降。「これから迎える人生後半戦は、最前線から降りて、これまでとは少し違う生き方を見いだしていく、退却作戦。退却するときには、メンタルの整え方こそ重要なカギを握ります」と、元・陸上自衛隊心理教官で心理カウンセラーの下園壮太さんは話します。この先の人生において私たちが直面していく悩みとはどんなもので、どう扱っていけばいいのか。人生後半戦をむやみに消耗せず歩んでいく“トリセツ”を紐解いていく、新連載です。

「退却作戦」には技術が必要
人生を折り返した頃から、日々の暮らしや仕事において、悩みの性質が変わってくるのではないかと思います。「定年後」という言葉がリアリティを帯びてきて、老後に関して漠然とした不安が出てくる。一方で、自分はまだまだ現役、年齢なんてただの数字さ、と突っ走ることができる人もいる。そんな中で自分を取り巻く環境が変わり始め、想像しなかったような悩みに直面することがあります。
先生は最新作『自衛隊メンタル教官が教える 50代から心を整える技術』で、人生後半はその人の人生における退却作戦だ、と書かれていますね。その人が自覚していようといまいと、この退却作戦は、今まで通りの生き方、価値感だけでは生き抜けない、と。
下園さん そうなんです。まず、退却作戦、という言葉の意味について補足させてください。私は20年間、自衛隊という組織で隊員たちの心のケアに携わってきました。自衛隊では、震災の災害現場や紛争地への派遣、自殺や事故のケアという過酷な現場における、心の整え方を考え、いろいろなプログラムを作り、試行錯誤してきました。
それぞれの作戦を一種の「戦い」として捉えるとき、「戦線縮小」というのは普通にあることです。このとき、いかに退却作戦をうまく進めるかが、指揮官の腕の見せどころといえます。
戦線拡大は、勢いがあれば遂行できる。一方、退却するときには、ある程度粘りながら、すでに疲れている兵士の士気を落とさず、かつ装備もなるべく失わず、撤退することが重要となる。そこには、技術が必要です。
今回、新型コロナによって発令された緊急事態宣言をどの時点でどうやって解除していくのか、「出口戦略」という言葉で議論がされています。この出口戦略も、退却作戦の一種です。
折り返し地点以降の人生もまた、技術が必要な退却作戦だということですね。私たちは、その退却作戦において、自分自身をコントロールする指揮官となる必要があるのですね。
下園さん そうです。だからこそ、あらかじめ「この先、自分の進む道筋はどうなっていくのかな」と全体像をつかんで、計画的に進めることが重要なのです。
楽観が許されない作戦を自衛隊で立てるときには、次のようなコツがあります。
◎ まず、最悪のケースを想定する
◎ その後、今、できることを考える
この思考手順を用いて、今回は「この先、何が起こるか」を見ていきましょう。さらに、連載を通して「今、できること」を具体的に読者のみなさんと考えていきたいと思います。