高齢になり親の運転に不安を感じて「そろそろ運転、やめた方がいいんじゃない?」と働きかけても、なかなか受け入れてもらいにくいことがあります。「生活そのものだけでなく、運転できることが自信を支えている重要な要素である場合、運転をやめることは本人にとってはとても苦しいこと。頭ごなしに説得するのは逆効果です」と、元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんは言います。親の気持ちに寄り添いつつ、どのように免許証の返納に導いていけばよいのか、大切なポイントを聞いていきます。

相手の生活状況や気持ちを理解しないと、話は一方通行になる
前回は、身近な人が、誤情報やデマを信じ込んでしまったときの受け止め方を教えていただきました。
下園さんはこの連載でいつも、「人の心の仕組み」を理解した上でいろいろな出来事に対処することが大切、と教えてくださっています。ただ、なかなか客観的になれないのが親子関係かもしれません。また、高齢になると人はより「頑な」になるように思えます。
下園さん 確かに年齢とともに人は頑なになりやすいですね。高齢になるにつれ、エネルギーが低下し、不安になりやすくなります。社会との関わりが多く常に人と交流している人はさておき、家の中にこもりがちになると入ってくる情報も偏りがちで、考え方も固定しやすいのです。
頑なになると周囲の意見を聞き入れることも難しくなりますね。例えば、今回伺いたいのは「免許返納」に関してです。「そろそろ運転免許を返納したら?」というアドバイスがなかなか親には受け入れてもらえないときがあります。免許の返納に限らず、こちらの思惑で「こうしてほしい」というとき、親子だとつい強く主張してしまい、言い争いになる……ということもありそうです。
下園さん ありますあります、そういうこと。超高齢社会で、これからも課題となるテーマですね。
まず結論から言うと、いくらこちらが良かれと思っていても、強い言い方や相手を否定するような言い方をしてしまうと、全く伝わらない、ということです。
強い言い方、相手を否定するような言い方、というと、「もう年なんだから運転はやめて」とか「物忘れも増えているし、この間だってぶつけそうになって危なかったんでしょ」というような言い方でしょうか。
下園さん そうです。相手の行動を変えたいと思うとどうしても強い口調で言ったり、脅しっぽいことを言ってしまいがちです。しかし、加減がすごく難しい。直球ストレートな球を投げると、同じくらいに反発が返ってきます。「俺はまだそんな年じゃない!」の一言で会話は終わりになるでしょう。