疲れやすくなる中高年世代、落ち込みやすくなり、疲労をため込んだ末にうつ状態になってしまうことがあります。苦しんでいる身近な人の力になりたいとき、最もやりやすいのが「話を聞くこと」。しかし、私たちはつい、無意識のうちに相手を追い込んでしまいがちです。「目に見える問題を解決しようとしてよかれと思ってするアドバイスが、うつの当人にとっては、動きなさい、変わりなさい、というメッセージとなってしまうのです」と元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんは言います。今回は、うつ状態の人に寄り添い、確実に力になることができる「話の聞き方」をお聞きします。

本人に「何かをさせよう」という発想を一時保留しよう
前回は、うつ状態の人は普段どんな性格の人でも「対人恐怖」の状態にあり、気軽に人に相談できなくなっていること、また、力になりたい、と思っているこちら側とうつ状態の人には考え方や感じ方に大きなギャップがあることを教えていただきました。
元気づけたい、と思うあまりに近づきすぎると“熱すぎるストーブ”になってしまう。だからこそ、適度な距離を保ちながら話を聞くことが大切だということでした。今回は、「じゃあ、どんなふうに話を聞いていけばよいのか」ということを伺いたいです。
下園さん 私は長年、「死にたい」と思うほどまでに落ち込んでいるうつ状態の人を支援してきました。また、そういった人を支援するカウンセラーも育成しています。
その際に、繰り返し「これだけは外してはいけない」と肝に銘じているポイントがあります。それは、本人に「何かをさせよう」という発想を一時保留にする、ということです。
苦しんでいる人が目の前にいると、周囲はどうしても、本人が抱えている、目に見えやすい表面的な問題を解決したくなるものです。具体的には、本人の性格や能力、抱えている課題や環境など――。「ちょっと考えすぎなんじゃない?」「もうちょっと頑張れば乗り越えられるはず」「こんなふうにしてみたら?」というふうに。全然、悪気はないのです。そういった目に見える問題を解決すれば、確かに状況は良くなるのかもしれません。
しかし、その言葉を、本人は「変わりなさい、動きなさい」と言われている、と受け止めます。確かにその意見は正しいので、本人もやってみようとしますが、心身ともに疲弊している状態ですからことごとくうまくいかない。それで、もっと頑張ろうとします。その結果、疲労が上積みされていき、うつ状態はもっと悪化していくのです。