長引くコロナ禍や仕事の負担増などで身の回りに心の調子を崩した人はいないでしょうか。身近な人がうつ状態になると、「元気になってほしい」と思うあまりに「こうしてみたら?」とアドバイスしたり、深く考えずに「頑張れ」と言ってしまいがち。また、「なんでも相談してほしい」と聞き役になろうとするものです。しかし、元・陸上自衛隊心理教官の下園壮太さんは、「うつ状態が悪化するほど、人は人を頼れなくなるのです。まず、うつ状態になると人はどんな状態になるのかを理解することが大切です」と言います。今回は、うつ状態になると人はどのような苦しさに直面するのかをお聞きします。

うつ症状が悪化すると人に相談できなくなる
前回は、「心の浮き沈み」についてお話しいただきました。その中で、「やってしまいがちなのが、弱ってしまった人に対して『責任感がない』と喝を入れようとしたり、『もう少し頑張ってみようよ』と下手に応援して頑張らせてしまうこと」と下園さんはおっしゃいました。
そこで今回は、友人や家族など身近な人がうつやうつに近い状態になったら、ということについて聞きたいと思います。年齢とともにエネルギーが低下し、同世代の友人や家族も疲れやすく、落ち込みやすくなってきます。実際に、うつ病になっている状態の人にどう声をかけたらいいのか、自分の思うことをアドバイスしてもよいのかなどを知りたいです。
下園さん まさにそこは私自身が手がけてきたカウンセリングの最前線のお話ですね。喜んでお話ししましょう。
まず、相手がどのような状態にあるか、うつになるとはどういうことか、というところからおさらいしましょう。
誰かがうつになったとき、身近な人は「なんでそんなに苦しくなる前に相談してくれなかったの?」とやりきれない思いになるものです。しかし、うつが深刻化するほど、人は相談ができなくなるのです。
助けて、というサインを出せなくなるのですね。それはどうしてでしょう。
下園さん その説明をする前に、ある調査結果を紹介しましょう。「自分の仕事や職業生活に関する不安や悩み、ストレスについて相談できる人がいる」とする人の割合は84.6%です。そのうち「実際に相談した」人の割合は78.1%となっており、「相談することによってストレスが解消された」とする人は31.1%、「解消されなかったが、気が楽になった」は59.2%となっています(厚生労働省平成27年労働安全衛生調査)。このように、通常は悩みがあれば多くの人が人に相談し、悩みを解消できているといえます。
ところが、もっと症状が進むとまったく逆のことが起こるのです。
日本財団自殺意識調査2016では、死にたい、という自殺念慮があったときに「相談しなかった人」は73.9%に及びました。そして、1年以内に自殺未遂経験がある人のうち、自殺未遂の前に「誰かに相談しなかった人」は51.1%でした。つまり、うつが深刻になると、半数から7割の人は「人に相談をしない」のが現実なのです。相談できない、といったほうが正確かもしれません。