お酒を「ストレス発散の手段」にするのはNG
フィジカルトレーナーという仕事をしている私ですが、お酒は飲みます。基本的に、お酒は、決して悪いばかりのものではないと考えています。
ただ、お酒は「どのように付き合うのか」がすごく重要です。お酒は、ストレス発散の手段にしてはいけません。
「ストレスコーピング」という言葉を聞いたことはありますか? これは、認知行動理論で提唱される方法で、日常生活において様々なストレスを感じた際、戦略的にストレスに対処するための方法です。
ストレスコーピングには、ストレッサー(ストレスの原因)から「距離を置く」「回避する」、そして「ストレスの耐性を高める」「ストレスを忘れる(気分転換)」など、アプローチの種類がいくつかあります。
例えば、仕事がストレッサーだった場合、仕事量を軽減することは「ストレッサーを軽減する」、転職は「ストレッサーを回避する」ことになります。また、映画鑑賞や読書、あるいはスポーツをすることなどは「ストレスを忘れる」ための気分転換であり、いずれもストレスコーピングの一つです。
しかし、このなかに「お酒を飲む」を入れてはいけません。なぜなら、ストレスに対処する方法としてお酒を使うと、アルコール依存症につながる恐れがあり、また飲み過ぎれば、肝疾患や糖尿病、様々ながんなどの病気のリスクも上がるからです。
そもそもお酒を飲んでも、ストレスに対処したことにはなりません。確かに一瞬、楽しい気持ちになり、ストレスを忘れたようにも感じます。でも、実際は、ただ酔っているだけであり、気分転換ができているとは言えないのです。
お酒の問題は、ストレスを忘れたと感じるようになるまで飲もうとすると、次第に量が増えていってしまうことです。その結果、依存症や病気につながってしまう可能性があるというわけです。
お酒をストレス発散の手段にするのではなく、別の方法でストレスに対処すべきです。
「より美味しいワイン」を求めてエスカレートすることも
ストレス発散の手段ではなくても、お酒を飲むことが「自分の趣味」で、より美味しいお酒を飲みたいと思っている人がいますが、これも場合によっては注意が必要です。
お酒が好きな人は、美味しいお酒に出会うと、気分がアップしますよね。なぜかというと、“幸せホルモン”と呼ばれる神経伝達物質の一つ「ドーパミン」が脳のなかで分泌されるからです。
以前、この連載で、ドーパミンがドバっと分泌される脳のメカニズムである「報酬予測誤差」についてお話をしました(詳しくは「『コロナ外食自粛』で太る人、太らない人の違いは?」を参照)。

ワインの例で説明をすると、事前に想像したワインの味と、実際に飲んだときの味の差が良い意味で大きいほど、人は感激し、ドーパミンが多く分泌されます。ドーパミンは別名「脳内麻薬」とも呼ばれ、一度このドーパミンの分泌による快楽を経験すると、人は「もっともっとドーパミンを出したい!」と求めるようになります。
そして、次に飲むときは自分のなかで期待値も上がっているので、さらに美味しいものを飲まなければ満足できなくなります。
その結果、「美味しいワインが飲みたい」という欲求から抜け出せなくなり、そして飲む量がどんどん増えていってしまうと、依存症や病気に近づいていきます。
また、ワインにハマってしまうケースでは、より高いお金を出し、美味しいワインを探すようになります。高価なワインが美味しいとは限りませんが、高いお金を出せばそれなりに美味しいワインが見つけやすくなるので、いつしか経済的に苦しくなってしまうという問題も起きるのです。
