環境の変化からストレスが増え、肩こりの原因に
さて、ここまでの説明で、筋力不足、血行不良が原因で肩こりが起きることが分かっていただけたかと思います。それでは、定期的に体を動かし、筋力不足とも血行不良とも無縁であれば肩はこらないかというと、そうではありません。肩こりは、ストレスが原因でも起きるからです。
実は、オリンピックに出場するようなトップクラスのアスリートでも、肩がこります。彼ら彼女らは、筋力も十分ありますし、練習中に腕をたくさん動かしているので、血行不良でもありません。それでも、大きな大会の前になると、ストレスから肩こりが起きるのです。
かくいう私も、毎日仕事で体を動かし、動的ストレッチも欠かさず行っていますが、肩がこることはあります。そういうときは、フィジカルトレーナーとして難しい仕事に挑戦しようとしているときだったりします。例えば、これまで指導した経験がない競技のアスリートを教えるときなどです。
以前の連載記事でも解説しましたが、ストレスが高まると、脳の血流量が減り、前脳にある「側坐核」という部位の働きが低下することで、体に痛みを感じやすくなることが分かっています。そのため、ストレスがあると、肩こりがさらにひどくなってしまうのです。
ストレスから肩がこってしまったら、私は趣味のランニングに出かけます。すると、肩がみるみる楽になるのを実感できます。好きなランニングをやることでストレスが発散できるというわけです。
また、ストレスの原因を把握することも大切です。私が、肩こりに悩むクライアントに「いつから肩こりがひどくなりましたか?」という質問をすると、「そういえば、転職してから…」「結婚を機に、引っ越したので…」といった回答が返ってきます。つまり、環境の変化がストレスの原因になっていたりするのです。
相談者の方も、大事なプレゼンが迫っているときに肩こりがひどくなっているので、仕事の忙しさがストレスの原因となっている可能性はありますよね。
マッサージ中はスマホを置いて「自分を見つめ直す」時間に
肩こりをマッサージだけで治そうとするには無理があるという話をしましたが、一方でマッサージには何も効果がないかというと、そうではありません。私もマッサージが好きです。
マッサージでは、押したり揉んだりすることで一時的に血行が良くなるだけでなく、心身ともにリラックスすることで、ストレスが和らぐ効果が期待できます。気分転換の手段の一つと考えればいいのです。好きな映画を観たり、ゆっくり入浴したり、散歩に出かけたりすることと同じです。
私から相談者の方へ提案したいのは、マッサージの時間を、自分を見つめ直すために使うということです。そうすれば、何が自分のストレスになっているのかが見えてくるでしょう。
私が、マッサージの時間こそ自分を見つめ直すのに最適だと知った出来事がありました。それは、大きな大会で、フィジカルトレーナーとして、あるアスリートに帯同したときのことです。
その選手は、試合を控え、「肩がこる」と訴えていました。そこで、メディカルスタッフがマッサージをすることになりました。マッサージが始まると、その選手はスマートフォンを取り出しました。練習中はスマホを見られないので、友人や家族とやり取りしたかったのでしょう。
しかし、メディカルスタッフは、「マッサージ中はスマホを置いて、自分を見つめ直す時間に使いなさい。あなたの肩こりは、ストレスからきているのだから」と言いました。目の前でそのやり取りを見ていた私は、なるほどと感じたのです。
現代社会に生きる我々は、スマホやPC、あるいはテレビの画面から、膨大な情報を受け取っています。マッサージを受けている1~2時間は、そうした情報をシャットダウンすることで、内省できる貴重な時間として使えるはずです。
マッサージの間は、自分を見つめ直し、肩がこる原因を考え、自分の体と真摯に向き合ってほしいのです。そうすれば、今よりずっと、上手に肩こりと付き合っていくことができるでしょう。
【中野さんからのアドバイス】
慢性の肩こりがどうしても治らない人へ…
▶
肩こりの原因は、筋力不足、血行不良、ストレスの3つ
▶
特に女性で筋力不足の人は、肩周辺の筋トレを!
▶
血行不良の対策は、腕を回す動的ストレッチ
▶
何がストレスの原因なのか、自分を見つめ直して探そう
(まとめ:長島恭子=フリーライター)
