筋力の衰えではなく、「固有覚」の衰え
冷蔵庫から牛乳パックを取り出すときに落としそうになったり、落としてしまったりしたことは、誰にでもあるでしょう。そういうことが続くと、「握力が衰えたのでは」と不安になるかもしれません。
物を落としやすくなっただけでなく、公園でお子さんと遊ぶときに、体が思うように動かなかった、とのこと。ただ、これらは単純に、筋力が衰えたり、年のせいで体力が落ちたから、とはいえないと思います。
牛乳パックを落としてしまった人でも、それを買い物袋に入れて持つのは楽勝ですよね。スーパーに買い物に行ったら、もっと重いものを持って帰ってくることもあります。つまり、筋力は十分にあるのです。
トレーニングの現場でも、ダンベルを渡すと、クライアントが落としてしまったり、うまくつかめなかったり、ということがあります。これも、筋力が不足しているからではありません。
これらは、専門的な言葉でいうと「固有覚」が衰えていることの表れです。固有覚とは、トレーニングやリハビリテーションの分野で使われる言葉で、「固有受容感覚」や「深部感覚」ともいいます。
固有覚は、下図のように大きく4つに分けられます。
人間の五感として、触覚や味覚は、皮膚や舌などの表面にあるセンサーが感じ取り、脳に信号を送ります。一方、固有覚は、関節や筋、腱など体の内部にあるセンサーが感じ取り、体の位置や運動の状態についての情報を脳に送ります。そのため、深部感覚ともいわれ、いわば「体の内部の目」なのです。
人間は、さまざまな動作を行うとき、固有覚からの情報を脳で整理し、それをもとに筋肉に指令を出しています。もし、位置覚が鈍っていたら、手や脚や頭などの位置が把握しきれず、ドアに手を挟んだり、家具に足をぶつけたりしてしまいます。また、運動覚が衰えると、道で人とすれ違うときに、よけたつもりがぶつかったりしてしまいます。
そして、人間は年を取ると、さまざまな機能が低下していきますが、固有覚も例外ではありません。早い人では、40代の後半から衰えが見え始めるのです。
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