「見えすぎる眼鏡」や「ピント調節のしすぎ」は疲れ目のもと
第9回 疲れ目の診察に「視力検査」が必要な理由
石岡みさき=みさき眼科クリニック院長
目のかすみや痛み、かゆみ、異物混入など、目にまつわるさまざまなトラブルが起きたときに、急いで眼科を受診すべきなのはどんな場合なのでしょう? 反対に、あわてなくてもよいケースとは? 失明の恐れのある緑内障など、重大な病気を見落とさないためにはどうすればよいのでしょうか? この連載では、眼科専門医の石岡みさき先生(みさき眼科クリニック院長)が、実例を基に、目の健康を守る秘訣をアドバイスしていきます。今回のテーマは「疲れ目」です。
在宅勤務が増えたのが原因と思われるのですが、最近、目の疲れを訴える人の受診が増えました。
これは「ものもらい」なので、抗菌薬の目薬を処方しますね |
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先生、ついでに疲れ目の目薬もください
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あ、目が疲れるんですね。でしたら視力も測りましょう |
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いえ、視力は良いので検査はいりません。薬だけください
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まあ、薬を出すこともできますが、目が見えすぎちゃっているならそれも疲れ目の原因になりますよ |
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え??
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(エピソードは実際にあった話をいくつか組み合わせて脚色しています)
パソコンの画面を長時間見るなど、目を酷使すると疲れを感じます。目が疲れないためには、(1)両眼が同じようによく見えている(2)ピントを調節しすぎない―という2つの条件が必要です。順に説明していきます。
「両眼がよく見えている」状態を妨げるものとは?
目の見え方を悪くする代表的な要因として、近視などの「屈折異常」、「老眼」、「斜視・斜位」、「ドライアイ」があります。
1. 屈折異常
目の中に入ってくる光は、一番表面の角膜と水晶体(目の中のレンズにあたる部分)を通ることで屈折し、網膜の上で像を結びます。このとき、網膜から離れたところに焦点が合ってしまい、ものが見えにくい状態を「屈折異常」と呼びます。
屈折異常には遠視、近視、乱視があります。近視は網膜よりも前に焦点が合っている状態で、近くのものははっきり見えますが、遠くがよく見えません。一方、遠視は、網膜よりも後ろで焦点を結ぶため、遠くのものも近くのものもぼやけて見えます。よく見えるようにするには常にピント合わせ(後述する「調節」)をしなくてはなりません。乱視は焦点が2カ所以上に分かれてしまった状態で、「ものが均一に見えない状態」だと思ってください。どの屈折異常も、適切に矯正しないと、目が疲れてしまいます。
2. 老眼
次に老眼(医学用語では「老視」と言います)です。老眼は、ピントを「調節」する力の低下です。人の目は、手元を見るためにはレンズ(水晶体)の厚みを変えてピントを調節する必要があるのですが、この調節力は加齢とともに衰えるため、40歳前後になると近くのものが見えにくくなるのです。老眼は100%の人、全員がなる老化現象です。図1のように、生まれたときから目の調節力は弱くなっていくので、ある日突然老眼になるわけではありません。

「近視の人は老眼にならない」ということもありません。近視の人は裸眼で近くが見えているので老眼に気付きにくいだけで、遠くが見えるように眼鏡やコンタクトレンズで矯正してしまえば老眼年齢の人は近くが見えにくくなります。「私は老眼にならない」と言う方がときどきいらっしゃいますが、それは「私は死なない」と言っていることと同じです。