「前立腺がん」と「乳がん」は、男女それぞれに見られる代表的ながんで、戦後増加傾向にありますが、それでも日本人に少なく、他のがんに比べて5年生存率が高い、検診の普及の影響により死亡率以上に罹患率が増えるなど共通するところが多くあります。今回は、前立腺がんと乳がんの傾向とその発生の要因を見ながら、私たちがとるべき対策について考えていきましょう。
前回お伝えした「肺がん」は、「たばこが最大のリスク要因である」、つまり、がん発生とその原因がはっきりしているために、「禁煙することによってそのリスクを下げることができる」と言い切ることができました。1970年代までに喫煙者が増加したことにより、肺がんが増え、喫煙者が減れば、約20年の時間差で肺がんも減る――というように、リスクとがんの関係性が明確に見られています。また、第6回で紹介した胃がん、肝臓がんも主たる要因が「感染」で、感染率の推移が罹患率に影響するということをお示ししました。

このようにリスク要因が明確になっているがんがある一方で、そうでないがんもあります。今回解説する「前立腺がん」「乳がん」などがそうです。
皆様は、この2つのがんについて、どのような印象をお持ちでしょうか。前立腺がんについては、「歳を取ると増える」「進行が遅く、おとなしいがん」といった印象が一般的でしょうか。一方の乳がんは、著名人が罹患したり亡くなられたりすることがたびたび話題になります。「もしかしたら自分や身近な家族が、いつか罹(かか)るかもしれない」と思ったことのある人も少なくないでしょう。
前立腺がんと乳がんは、それぞれの性に見られる代表的ながんです。戦後増加傾向にあり、それでも日本人に比較的少なく、近年、検診による早期発見によって罹患率が増えている側面があり、ステージが進んだ乳がんを除けば生存率が高い(詳しくは後述)、といった共通点があります。そして、胃がん、肝臓がん、肺がんほど、原因が明確になってはおらず(特に前立腺がん)、「これを避ければ(こういったことを実践すれば)リスクを下げられる」と言い切ることが難しい、という点においても共通しています。
今回は、前立腺がんと乳がんの近年の傾向とそのリスク要因を見ながら、私たちがとるべき対策について考えていきましょう。
前立腺がん、乳がんの死亡率は戦後増加している
がんの部位別死亡数で見ると、男性の前立腺がんは第6位(1万2013人)、女性の乳がんは第5位(1万4285人)となっています(いずれも2017年のデータ)。一方、罹患率を見ると、前立腺がんは第4位、乳がんは第1位となっており、死亡順位に比べて罹患順位が高くなっていることが分かります。
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | 第6位 | |
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 肝臓 | 膵臓 | 前立腺 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 | 肝臓 |
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | |
男性 | 胃 | 肺 | 大腸 | 前立腺 | 肝臓 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 胃 | 肺 | 子宮 |