数あるがんの中で、現在の日本人の死亡数トップとなっている「肺がん」。毎年7万4000人もの人が肺がんで命を落としています。前回の大腸がんに続き、今回は「肺がん」の近年の傾向とその要因を見ていきましょう。肺がんの原因として喫煙(たばこ)があることはよく知られているものの、欧米と比べるといまだに意識に大きな差があります。受動喫煙の怖さについても意識は浸透していないのが現状です。

前回紹介した「大腸がん」に続いて、今回は「肺がん」の近年の傾向とその要因についてお話ししましょう。
数あるがんの中でも、現在、日本のがん死亡数でトップになっているのが肺がんです。現在、日本では年間約7万4000人(男性5万3002人、女性2万1118人)もの方が肺がんで亡くなっています(2017年のデータ)。男性の死亡数で断トツのトップで、女性の死亡数でも第2位になっています。
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | |
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 肝臓 | 膵臓 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 |
男女計 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
肺がんの死亡率も高齢者ほど高く、高齢化の進行により人口当たりの死亡数も2010年代半ばまで増加傾向が続いています。しかし、日本人の年齢構成が昔も今も同じと仮定すると、大腸がんなど戦後増加傾向にあった他のがんと同様に、肺がんの死亡率(年齢調整死亡率)は、戦後は増加傾向にありましたが、1990年代半ばをピークに減少傾向に転じています(下の青いグラフ)。

なお、罹患率については統計のある1970年代以降増加傾向にあります(男性は1990年代ごろより横ばい傾向)。罹患率が増加傾向にあるにもかかわらず、死亡率が減少していることをどう解釈すればいいかについては、治療の向上により肺がんと診断されても亡くならなくなった(生存率が向上した)という側面もありますが、死亡率が1990年代半ばで急速に減少に転じる現象をそれだけで説明することは困難です。ヘリカルCT(コンピュータ断層撮影)検査などの普及に伴い、これまでは必ずしも寿命前には診断されることがなかったような、上皮内がんを含む早期の肺がんの診断が増加している影響の可能性が考えられます。